「戦争映画パロディに見せかけた映画製作パロディ」トロピック・サンダー 史上最低の作戦 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
戦争映画パロディに見せかけた映画製作パロディ
ポスターを見ると戦争映画のパロディのようにも思える。
確かにそんなシーンも仕込まれている。
しかし本作はむしろ映画製作の裏側に切り込んだパロディといえるだろう。
役者陣として配置されるのは、代名詞的な映画シリーズを持ちながら落ち目のタグ、黒人役のために整形手術で皮膚の色を変えるという仰天役作りのカーク、下品な笑いを取るコメディ俳優で薬物中毒のジェフと、いかにもアメリカ俳優にいそうな人たち。
なーんとなく思い当たる名前もあるんじゃないだろうか。
そして映画だからといって、舞台が撮影現場だけで終わらないのがおもしろい。
役者以外にも、特殊効果撮影のスタッフによるミスで予算を食いつぶし、プロデューサーからはコッテリ焼きを入れられ、原作作家は勝手なことを言う。
タグのエージェントであるリックが契約条項を掲げてプロデューサーに詰め寄れば、製作が成立しない映画なら役者もろとも見捨てるプロデューサー・レスの姿があったりする。
実際の映画製作がどうなのかはともかく、パロディとしては実によくできてる。
「いかにもありそう」という設定と、それを笑えるレベルで茶化すという芸当をやってのけているのがスゴい。
ふつう、監督が地雷を踏んで爆死すれば、「撮影どころじゃない!」と大騒ぎして当然。
なのに「これも撮影なのさ」と言い放つタグなんか、どう考えてもヘン。
ところが"映画"という虚構を画面に惜しみなくばら撒いた上で、「どうもおかしいぞ」と現実的な立場を表明するカークを配置することで観客も「しょーがない。付き合ってやるか」と受け入れる気持ちの余裕ができる。
本作はあまりにもバカげた要素を放り込んでいるため、観客はそっぽ向きかねない。そんなリスクを構成の妙で見事に回避している。うまいとしか言いようがない。
ラストも感動的なシーンに仕立てているのだけど、それもパロディだろう。いかにも万歳な雰囲気を用意しておいて、本当のクライマックスはすでに終わっている。
思い込みの激しいタグと役作りが極端なカークとの対峙、そのやり取りが監督の伝えたかったことのように思える。
だが、直後のおちゃらけで全部台無しにしちゃうのだけど。製作・原案・脚本・監督・主演の1人5役をこなしたベン・スティラーの照れ隠しを感じずにはいられない。
では評価。
キャスティング:7(実は豪華なのに、そうは感じさせない役者使い)
ストーリー:7(戦争映画のパロディと見せかけて、実は映画製作のパロディという手の込んだ語り回し)
映像・演出:4(無駄に豪華なシーンは最序盤に集中。全体としては地味)
パロディ:9(かなり綱渡りの仕込を構成で逃げ切る巧みさ)
おバカ:8(愛すべき愚かしさがそこかしこに)
というわけで総合評価は50点満点中35点。
くだらないのに真剣。無駄っぽいところに豪華。
頭からっぽにして笑うにオススメ。
裏側を掘り下げるに熱心なパロディ好きには超オススメ。