「甘く腐った“ギリアム・ワールド”全開!」Dr.パルナサスの鏡 めぐ吉さんの映画レビュー(感想・評価)
甘く腐った“ギリアム・ワールド”全開!
ヒース・レジャーの遺作となってしまった本作、
制作途中で亡くなってしまったヒースの役を、ジョニー・デップ、コリン・ファレル、ジュード・ロウが演じるということで
「どうなるんだろう?」と懸念していましたが、まったくの杞憂でした。
「最初からこうだったんじゃないの」と思ってしまうほど
素晴らしい完成度の作品になっていました。
カラフルでいかがわしさ満点、甘~く腐っていくようなテリー・ギリアムワールドの集大成!
もう、好き好き大好きーーーー!なのですが、
この作品がヒースの遺作になってしまったというのはなんとも皮肉…
テリー・ギリアム自身も、かなりこたえたのではないかと思います。
というのも、そもそもこの作品自体、「生と死(の彼岸)」のような世界がテーマ。
さらに、なんだかテリー・ギリアム本人が、
この作品のパルナサス博士のように悪魔と取引をしてしまった“代償”なのではないかしらなどど、つい考えてしまいます…
そして、これを観てつくづくと思ったのは、テリー・ギリアムとティム・バートンの描く世界が似ているようで決定的に異なるのだなあ、ということ(もちろん、どちらも素晴らしいのですが)。
二人とも、「アリス」のような“異界”好き、かなりダークなもの好き…という点では共通していますが、バートンの描く世界は、ダークではあっても、どちらかというと子供が夢に描く“ファンタジー”風で、質感がプラスチックっぽいというか、“つるん”としているのに対し、
ギリアムは、もう、徹底的に成熟しきって、腐ってる…。
木とか紙とかでできた、かつてはとても美しかったものが朽ち果てて、甘い腐臭を漂わせ、触れたそばからモロモロと崩れ落ちてしまいそうな世界。
さらにこの作品では、東洋の哲学の香りまで織り交ぜて、もう曼荼羅のような様相さえ呈しています。
某番組で某タレントが「小難しすぎる」というようなコメントを言っていたそうですが、
確かに一筋縄ではいかないインテリジェンスの漂う(ゆえに狂ってる)作品だけれども、アタマで理解しようとしないで、ただ感じることがこの作品のポイントではないでしょうか?
ただただ、埃にまみれた万華鏡のような煌く美しい世界を思いっきり堪能し、プチトリップできました。
それに…
パルナサスを誘惑する、“悪魔”役のトム・ウェイツがものすごーーく魅力的。
ただ悪いんじゃなく結構いいヤツだったりして、
「やっぱり悪魔がいてこそ、世界は面白くなるのねー」と納得してしまいました。
(きっとギリアムも悪魔のほうが好きなんだろうなあ、、、)
そういえば、ヒースの代役としてトム・クルーズも名乗りをあげたそうですが、
「故人をよく知る人だけに」という理由でギリアムは断ったそうですね。
ちょっとだけ、コリン・ファレル演じる偽善者の慈善家を
トム・クルーズで見たかったかも…と思いました。