「ギリアムらしい映画ですが」Dr.パルナサスの鏡 ヨギベアさんの映画レビュー(感想・評価)
ギリアムらしい映画ですが
テリー・ギリアム作品は初監督『ホーリー・グレイル』以来欠かさず観ています。これは監督が好きに作ることのできた、ギリアムテイストが横溢している映画だという印象を持ちました(例によって撮影中の不自由-主演俳優の死-はあったにせよ)。お伽話然としたインナースペースの描き方、希望のない現実世界、モンティ・パイソン時代のような警官ギャグも現れて、これまでのギリアム作品を総まとめにしたような辛辣で諧謔味たっぷりの映画です。
でもギリアム監督、映像表現にかつてのような驚きが薄れてきて、息切れしているように見えますよね。この最新作も期待していたほどのものではありませんでした。観る側がギリアム調の映像に慣れたため新鮮さを感じなくなったということもあるでしょうが、率直に言って陳腐なんです(すみません)。特に売り物たるべき「イマジナリア」内の心象風景にガッカリ。半世紀も前ならともかく、これだけ映像技術が進化した今にあって、人の心の中があんな単純なものであってはならないでしょう。
さらに、ほとんどのギリアム作品と同様、ストーリーに感心するところはありません。原作ものならともかく、オリジナル脚本で作る意味がまったくわからない。現代のロンドン、高僧と悪魔の個人的な賭けに美形の悪党が絡むという、スケールが巨きいような矮さいような、正直どうでもよろしい話で、途中寝てしまってワケがわからなくなっても問題なし。
そういった意味でもこれはここ10年間のギリアム作品の総括でしょうか。良くも悪くもたいへんにギリアムらしい。
ところで最大のセールスポイントである4美形の競演は、本来の主演であるヒース・レジャーが存在感を示して勝ち。他の3人ももちろんそれぞれに個性的でいいのですが、ヒースは何をしでかすかわからない鋭利な不気味さを醸し出して、トニーというキャラクターに最も合っています。
ギリアムファンは誰でもそうなように、常人では考えもつかないような異常な想像力でもって観客をビックリさせてもらいたい、新作が公開される度にそういう期待を持って見に行くのですが、一応満足できたのは『12モンキー』が最後です。『パルナサス』の荒れたロンドンの風景を見ていて気がついたのですが、ギリアムの作風は世紀末の雰囲気なのですね。だから世紀末が過ぎ去ってしまった今となっては、ビミョーに時代に合わないのかも知れない。新ミレニアムに入ってからはサッパリですもん。いまやギレルモ・デル・トロやアルフォンソ・キュアロンといった(なぜかどちらもメキシコ系の)監督がギリアムの系譜を継いでいるように思えます。ギリアムがんばれ!