「ダークな魅力を放つ傑作」ダークナイト ゆたか@A-MIXさんの映画レビュー(感想・評価)
ダークな魅力を放つ傑作
今回は前評判とレビューを見渡して作品の形をある程度想定して見に行ったつもりでしたが、完全にその想定を越えた広さと深さを持った作品でした。
正義も悪もダークな色に沈み込み、判然としない世界にわたし達は放り込まれてしまう。登場人物それぞれが思い悩み、そしてその想い故に嘘をつく。
嘘は明かされない限り、その人にとって真実となる。
悲しいくらいに。
故ヒース・レジャー(以後ヒースと書きます)の名演技が評価されていますが、私はその中でもヒースの嫌らしいくらいの舌の動きに隅々まで行き渡った彼に演技の真骨頂を感じます。
むろん、目に色の深さも。
純色の悪は、その際だった純粋な色のためにむしろ魅力さえ感じます。
ヒースはそれを体現して見せた。
本当に惜しい人です。
ヒースに隠れていますが、アーロン・エッカートの演技も見放せません。
真の正義と己の信念のために自己犠牲をいとわない正義漢が、最愛の人を失って全てを見失って復讐の鬼と化す。
誰もが持ちうる素養であるために、彼の180度切り替わってしまう方向性にむしろ共感さえしてしまいます。
ダークナイトは正義と悪の狭間で苦悩するヒーローを描いています。
むしろ今回は悪を描いていると言って差し支えありません。
グレーゾーンの悪を。
我らがヒーロー、バットマンでさえその領域に踏み込んでしまっているのですから…。
それでも、この作品には光明があります。
真実を知り、暖かい目でバットマンの背中を見てくれている人の存在と、ダークに染まらない誠実さを真逆の位置づけの人々を通して描き出したのですから。
これは理想型です。
でも、いいんです。
朝日が差し始める夜明け前の一番暗い時、それが暗黒、「ダーク」なのですから。