「アパルトヘイトの歴史と重ね合わせて」第9地区 にんにん(`_´)ゞさんの映画レビュー(感想・評価)
アパルトヘイトの歴史と重ね合わせて
単なるSF映画でないのは、すぐにわかった。
南アフリカ出身の監督、エイリアンが難民であるという設定、第9地区というエイリアン専用のスラムのような居住区、『エビ』というスラングで呼ばれる醜悪なエイリアン、エイリアンは、誰もが忌み嫌う人間に仇なす存在。。。
完全にエイリアンは、アパルトヘイト時代の黒人として描かれ、アパルトヘイトというシステムが完成していった過程(権利の剥奪、土地収用の方法、移住強制、区分けという差別、迫害、拷問等々)が、一見正当に見える公的機関によって次々と実行されていく様を淡々と写す。
だけど、ここまでは、醜悪なエイリアンに対して、このような行為をすることにあまり罪悪感を感じない。人道的に問題があるとしても、対象がエイリアンだから、一般大衆は、あまり心が痛まないし、小事になってしまう。この恐ろしさ。
主人公の白人は、自分がエイリアン(黒人)に変わっていく過程で、仲間であった白人から迫害されて、徐々に変わっていく。
後半になって、醜悪であったエイリアンが人間のような生き物として描かれる。高い知性だけでなく、人間の感情、つまり、子を、仲間を思う気持ちを持つ者がいることがわかり、迫害する側の人間がより醜悪に見え、自分も次第に、エイリアン側に立って応援していることに気付く。
主人公もエイリアン親子と時間を共にするに従い、”人間らしく”なっていく。初めて黒人が同じ人間であることに気付くのである。
最後に姿形は変わり果ててしまっても、より人間らしい、他人を思いやる心は以前にも増している。
アパルトヘイトが完成していった過程、差別の歴史を学んでからこの映画を観ると、より深く南アフリカの悲しみがわかる。
また、アパルトヘイトから解放されて、一条の光(宇宙船から伸びる光で表現しているように思える)は見えたものの、まだ多くの黒人(エイリアン)が劣悪な環境に残されており、まだまだ道半ばであることも示されている。
アクションや造作も素晴らしいが、表面的な迫力だけでなく、本質を見たい。
非常に深く考えさせられる良作。