「難民異星人社会の差別と貧困と犯罪の描写が実に良い」第9地区 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
難民異星人社会の差別と貧困と犯罪の描写が実に良い
総合85点 ( ストーリー:75点|キャスト:85点|演出:90点|ビジュアル:85点|音楽:70点 )
どうしようもなくくだらない二流感でいっぱいの設定だけど、それでもここまでとことん美術・設定・映像を突き詰めると相当に水準の高い娯楽作品になった。差別や難民の話を織り込んでいる物語も良い。
異星人がエビ(Prawn)と呼ばれて馬鹿にされやっかいものの難民扱いされて差別されているのが非常に面白かった。異星人をそんなふうに地上で勝手に生活させるわけないだろうなんて突っ込んではいけない。難問収容地区である第9地区で彼ら独自の社会が生まれて、犯罪だらけの生活の中で独自の世界が生まれているのは、異星人であることを除けばとても現実感があった。
南アフリカにも他国から大量の人が不法に国境を越えて侵入して自分たちの社会を作るともいうから、南アフリカ出身の監督のそのような知識と経験が生かされているのだろう。武器商人たちの組織などは、報道番組などで多少見聞きするアフリカの残虐な社会を垣間見るようだ。
そしてただの普通のよくいる小物のクズに過ぎなかった主人公の、仕事を任命されたことと怪しい液体を浴びたことによる大きな転機によって変わっていく姿がこれまた面白かった。そんな役を演じたシャルト・コプリーの演技がこれまた良かった。全く知らない俳優だったが、これ作品以降は脚光を浴びて仕事が舞い込んでいるのは頷ける。
さらにエビに過ぎなかったとことん見下されている低能な犯罪者としての存在が実は知能もあって、といってもそりゃ空飛ぶ円盤に乗ってやってくるくらいだからそれは当然ではあるのだが、酷い生活の中で子供や仲間のことを考え20年もかけて密かに帰還計画を準備しているという逆転的な映し方も良かった。主人公もエビも当初とは全く違う視点で描かれる。
さらには細かな美術や迫力のある活劇があり、また立場の逆転や波乱を見せておいて、それでいて最後がどうなったのか・どうなるのか謎も残ったままの結末も面白かった。楽しめました。