ツリー・オブ・ライフ : インタビュー
ブラッド・ピット、伝説の監督T・マリックとの初仕事で開眼
寡作にもかかわらず、「伝説の映画監督」として名をはせているテレンス・マリック。監督と脚本を手がけた第5作「ツリー・オブ・ライフ」は、第64回カンヌ映画祭でパルムドールの栄光に輝いた。アカデミー賞主演男優賞を受賞したショーン・ペンとダブル主演を務めたブラッド・ピットは、製作にも参加し、父と息子の葛藤(かっとう)を鮮やかに描き出す。(取材・文:編集部)
ピット演じる父親は、ペン扮する実業家ジャック・オブライエンの人生に大きな影と多大な影響を与える。幼少期の記憶をたどりながら、父子の確執を軸に脈々と続く生命の営みに思いをめぐらせていく。30年もの間温められ、マリック監督の内面が投影された同作は、映画監督としてのメガホンを置いた期間に形となった。だからこそ、ピットら映画界にとって「神秘」そのものだった。
脚本なしで撮影を敢行した前作「ニュー・ワールド」(05)から一転、「ぎっしり詰まった豊穣(ほうじょう)」な脚本が用意された。しかしそのまま演技に落とし込むのではなく、マリック監督は日ごとのインスピレーションを柔軟に取り入れていったようだ。「決して(脚本に)書かれた通りになるように、無理矢理そのシーンをやらせるようなことはしたがらなかった」とピットは振り返る。
「(マリック監督は)人々が自由になれる自然主義のシナリオを、セットアップすることに興味を持っていた。彼はチョウチョウ取りの網を持って、傍観者としてモーメントを捉えようとしていたんだよ。その日の仕事や、その日にやろうとしている彼の考えについて書いて、僕たちに渡すんだ。その日に探求してみようとしていることを、さらに押し広げるためにね。毎日が探検だったんだよ」
マリック監督といえば、熟練した俳優と経験の少ない新人俳優やアマチュアを起用したキャスティングでも有名だ。同作でもピットやペンをはじめとしたベテラン勢から、ハンター・マクラケン、ララミー・エップラー、タイ・シェリダンというテキサス出身の少年が共演を果たしている。1万人以上の子どもたちの中から見出された3人は、プロの子役ではなくまったくの素人だった。少年たちの感受性や天性の素質を生かすため、脚本や作品のストーリーは一切伝えられなかったという。
「テリーにとって、3人が脚本を読んでこれから何が起きるのかを知ってしまわないようにすることが重要だったんだ。だから撮影当日、事前に少年たちと手短かに話をして、どんなディレクションで進んでいくか、どんな出来事が起きるのかを理解させるようにした。それから、彼らに自然に反応させたんだ」
40を越える映画作品に出演し、長いキャリアを誇るピットは、「ディパーテッド」(07)、「キック・アス」(10)などプロデューサーとしても類稀(たぐいまれ)な才能を発揮している。デデ・ガードナーらと製作に携わり、「編集の過程に興味がある」と吐露。「自分が持っているフッテージを使って、100もの違ったストーリーを語ることが出来るからだよ。あるモーメントが、その前にあるモーメントに支えられているからうまくいく、というのを見るのはとても興味深い。または、支えてくれるものが周囲にないためにうまくいかないというのを見るのも興味深いよ」
「自然の摂理と人間の本質」をあぶり出してきたマリック監督は、宇宙や生命の起源を映像化することに成功した。ピットから見たマリック監督は、「彼は、そういうことをものすごく美しく撮影することが出来るもっとも素晴らしいひとり」だ。そして「その要素は脚本に入っていたよ。だから、僕はセンセーショナルなものになることがわかっていた。テリーがナショナル・ジオグラフィックの最も優れた撮影監督たちを雇い、これらのイメージをとらえるために、彼らを世界中のいろいろなところへ送っていたのを知っていたんだ」と述懐した。
同作で3度目となるアカデミー賞ノミネートがささやかれているピット。新しい経験を積むことができた作品づくりは、「あらかじめ考えたことではなく、撮影で偶然起きることを信頼すべきだと感じた。もしそういうことを発見し続けることが出来るなら、それはやる価値があることだよ」と俳優業を見つめ直すきっかけとなったようだ。