ハンコック : 映画評論・批評
2008年8月19日更新
2008年8月30日より丸の内ピカデリー1ほかにてロードショー
迷惑なKYヒーローに笑って仰天の“超”型破りムービー
何度も地球存亡の危機を救ってきたウィル・スミスが猛烈なブーイングを浴びまくっている。といっても、それは映画の中のお話だ。今回の主人公ハンコックは自在に空を飛べ、車やクジラを片手で放り投げられる怪力の持ち主。至近距離で銃弾を浴びてもへっちゃらのスーパー不死身ヒーローである。ところがこの男、まるで空気が読めない。犯罪者を退治しても大事故を防いでも、勢い余って街のあちこちを壊してしまうため市民には大迷惑。おまけに酒臭いツバを飛ばしてスラングを連発するから、誰も彼を尊敬などしやしない。
そこで登場するのが、ハンコックに危機一髪で命を救われたPR会社の営業マン。まずはハンコックに反省の弁を述べさせ、ヒーローらしいボディスーツを用意し、警官の労をねぎらう「グッドジョブ」なるセリフを教え、すっかり地に堕ちた彼の印象を改善していく。そう、結局のところヒーローに大切なのは、好感を抱かせる“イメージ”なのだ! むろん「ダークナイト」の荘厳なヒーロー論には及ばないが、本作のヒーローをめぐる風刺や皮肉もなかなかウィットに富んでいる。
スミスの泥臭いヒーローぶりと奇抜なアクションで大いに楽しませてくれるこの映画は、中盤過ぎに“ありえない”どんでん返しが炸裂する。ストーリーも映像のトーンもがらっとシリアス路線に変貌し、本来このジャンルにはそぐわないドキュメント風手持ちカメラが俄然効果を発揮し始める。この劇的な転調には誰もが面食らうだろうが、失望よりも新鮮な驚きが勝る。スミスとシャーリーズ・セロンのキッチンでのお茶目なやりとりにも腹がよじれ、何だか未知の快感のツボを突かれたような“超”型破りヒーロー映画なのだった。
(高橋諭治)