マイ・ブラザー : 映画評論・批評
2010年5月25日更新
2010年6月4日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー
戦争をする国に生きる家族の苦悩が描き出されたシェリダンのリメイク
スサンネ・ビアの「ある愛の風景」をジム・シェリダンがリメイクした「マイ・ブラザー」では、オリジナルの世界が独自の視点から再構築されている。この題材には、個人の葛藤と家族の絆という要素があるが、2人の監督が重視する要素は同じではない。
ビアは徹底して個人の内面を掘り下げる。「ある愛の風景」では、償える罪と個人の力ではどうにもならない罪が明確に対置されている。兄のミカエルは、弟が働いた銀行強盗で被害にあった行員にも自ら謝罪に行くような男だ。そんな彼は、自分が殺した無線技師の妻に会いに行き、さらに追い詰められる。
舞台をデンマークからアメリカに移した「マイ・ブラザー」でも、もちろん兄のサムは罪悪感に苦しめられるが、彼の心の動きは家族と深く関わっている。兄弟の父親は元海兵隊員で、ベトナムから戻った彼は後遺症に苦しみ、家族に負担をかけた。母親を早くに亡くした兄弟は助け合い、特別な絆を育んできた。そんな信頼関係が崩れていくのだ。
これまでのシェリダンの作品には、紛争や差別によって抑圧されてきたアイルランド人や黒人の屈折した感情が、家族を翻弄するドラマがあった。アフガニスタンで捕虜になったサムは、アメリカを憎悪するタリバンから肉体的な拷問を受けるだけではなく、家族の情報によって精神的にも追い詰められる。それゆえ彼の歪んだ感情は家族に向かう。この映画には、戦争をする国を生きる家族の苦悩が描き出されている。
(大場正明)