劇場公開日 2008年4月26日

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「満たされない「家族」への思いが男を欲にすがらせる!」ゼア・ウィル・ビー・ブラッド ジョルジュ・トーニオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5満たされない「家族」への思いが男を欲にすがらせる!

2008年5月10日

笑える

<ストーリー>
ダニエルは石炭や金を掘る山師。時代は移り、石油の時代を迎えつつあり、彼は何人かの採掘仲間とともに石油を掘り当てるが、その中の一人を事故で失ってしまう。その息子を引き取り、彼を連れて次々と油田の眠る土地を買い広げていくダニエル。

ある日、ポール・サンデーと名乗る男が、油田がありそうな土地の情報を買わないかと持ち掛けてくる。ウズラ狩りを装いサンデーの土地を訪れるが、ポールの弟で牧師のイーライが、土地を売る条件として、教会への寄付を要求してくる。ダニエルは条件を呑むのだが・・・

<個人的戯言>
【♪レ~ジ~メ~♪】
オープニングから流れ続ける不協和音が、主人公のダークで飽くなき野望を表しているようです。そしてダニエル・デイ・ルイスの圧倒的な演技と存在感!わずかに覗かせる孤独と、その心が決して満たされないことを知っているからこそ、その欲望は尽きず、また誰も信用出来ない。目的のための見せかけはあっても、決してだれにも跪かず、屈辱を味わされた人間には必ず代償を払わせる。ラストの狂気の演技は、あまりにも凄過ぎて笑ってしまうくらい。

所謂「敵役」となる、ポール・ダノ演じる牧師とは、敵対しているようで、実は似た者同士なのかも。ポール・ダノの狂気の演技も素晴らしく、この二人の「対決」シーンは、この映画の中でも最大の見物の一つです。158分間、画面から圧力かかり放しの作品です。

【ぐだぐだ独り言詳細】
オープニングの鉱山が映し出される映像から、流れ出す現代音楽のような不協和音。そして鉱山の砂や石油で汚れた顔の中で、ギラついた眼差しのダニエル・デイ・ルイス。彼はもう最初から野望が溢れ出ていて、音楽も含め、これから始まる「石油王残酷物語」を既に予見させます。

亡くなった仕事仲間の子供を引き取る時点で、油田を買い集めるのに、彼を「利用」しようとしていたかはわかりませんが、子供を撫でるシーンにも、何か普通の親子関係の愛情表現というよりも、「俺の後継者としてしっかり学べよ」という部分と、「可愛く育って土地所有者をうまくだましてくれよ」部分があるように見えます。

順調に拡大していく油田開発。しかしサンデー家の長男からもたらされた情報で訪れた土地では、彼の弟で牧師のイーライとの対立が待っていました。まず「富」という餌で、住民から土地を安く買い上げようとする主人公ダニエル。しかし牧師イーライは、その常軌を逸したカリスマ性で、住民を掌握していきます。すぐにイーライが「敵」であると察したダニエルとの対決は、金欲とともに征服欲を満たすためのもので、二転三転しながら最後まで続きます。お互いに手段を選ばず、見せかけだけは相手の手に落ちたように見せても、すぐに「おまえの○○○○○○○を飲んでやる!」(映画の中の重要な台詞のためモザイク・・・)と虎視眈眈。何度も出てくるこの二人の対決は映画の最大の見所の一つです。特にラストの「対決」はあまりにも凄過ぎて、見ているうちに私は笑いそうになりました。そして決め台詞・・・これはオチなのか・・・

この「対決」以外にも、拡大してきた油田を買収しようとする石油会社に対する対応等でも表れる、主人公の征服欲。更にここには「息子」に対する思いも込められています。「事故」と「事件」がきっかけで、一度は遠ざけてしまう「息子」。しかし再び呼び寄せた時には、既にわずかな情も消え去り、「戦略」としての存在でしかなかったのでしょう。「息子」に最後に叫び続ける言葉には、わずかに見せた孤独も感じられるとともに、「誰も信じない」という結末しか見出せない悲しみさえ感じられます。

更に一切家族を持とうとはしなかったダニエル。それに近いものが「弟」の出現ですが、その「持ち物」に触れた時にわずかに見せる家族への郷愁も、その疑心暗鬼な心が、すぐに消し去ってしまいます。

結局全ての「情」は自身によって否定され、最後は征服欲を満たすことによってしか生きていけない男を、オスカー当然な圧力満載の演技でねじ伏せるダニエル・デイ・ルイス。158分間、体力は必要です。でも観ておくべき演技です。

ジョルジュ・トーニオ