「いえ、一回でもいいから。」君のためなら千回でも ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
いえ、一回でもいいから。
名画座にて。
…こんな台詞、いちど言われてみたいもの^^;
非常に効果的に使われているこの題名の台詞ですが、
作品中でこれが言われるのは、たったの二回。
しかも、違う人間が立場を変えて言うのが印象的です。
これは…どういう意味なんだろう。
ずっとそう思っていたけれど、ほぼ冒頭で見えてきます。
主人公二人の関係。
一人はお坊ちゃま。もう一人はその家の使用人の息子。
兄弟のように育った二人は、父親の公平な計らいにより、
まだ平和だったアフガニスタンで、凧揚げに興じています。
この凧揚げ競技の映像は素晴らしかった!
こんな風に相手を攻めて、糸を切るのを(昔あったかなぁ)
初めて観ました。スゴイ技だなぁ~と感心。
自分の小さい頃も凧揚げはお正月の定番だったし、
上手に揚げられる子はいましたね。凧にもよるんだけど^^;
自分が落とした相手の凧を、パートナーが拾いに行く時、
まずこの台詞を言うのだけれど、これを拾うのにも抜群の
勘が必要らしい。影を追うのではなく自然に分かるのだと。
そんなプロ?めいた二人の凧は見事に優勝。
幸せムードだった二人の間に、街の不良グループが嫉妬、
とある事件が起こって、二人の間に溝が出来てしまいます。
…そして現在。
アメリカに亡命し、小説家として成功、結婚も終えて
幸せな男に、親友の危機を伝える電話がかかってきます。
過去にソ連、現在はタリバンと、平和だったあの世界が、
まったく様相を変えてしまった現在、彼がとった行動とは。
長い長い物語(内容的に)で、主人公の半生が描かれていき、
二人(そして父親)が辿ってきた運命の過酷さが語られます。
この父親が本当に素晴らしい人格者で、息子のために働き、
母親のいない分をすべて埋めてきた存在感がありました。
彼がなぜ、使用人であった少年を息子のように扱ったのか、
そのあたりの真実もラストで丁寧に描かれていきます。
…政治的な描写は、かなりリアルで怖かった。
でもなにより、この主人公が過去にとってしまった行動への
懺悔に他ならない物語でもあります。
子供の頃、もしあんなことが目前で起こったら傷つくだろうし、
理解できない行動をとるかもしれない(父親は分かっていた)
…それがまだ、どこかで取り戻せるのなら。
自分に出来るすべてを相手の為に捧げようとする行為は、
過去に使用人だった彼が、自分の為にしてくれたことと同じ。
いつかしら人間は、巡り巡って誰かのために、尽くしとおす
時がやってくるのかもしれない。それでいいのだと思います。
悲しみと希望を胸に刻みつけるような作品でした。
(懸命に書いてくれた手紙って嬉しいよねぇ。私も嬉しい☆)