劇場公開日 2008年3月8日

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「一気呵成という言葉がよく似合う。」バンテージ・ポイント いきいきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0一気呵成という言葉がよく似合う。

2008年9月24日

興奮



 あなたにとって思い出されるのは羅生門?それとも、戦火の勇気?
 もしくは、HERO?(もちろんチャン・イーモウ監督の)

 スペイン・サマランカでテロ撲滅のサミットが開かれ、
 プロデューサーのレックス(シガニー・ウィーヴァー)が
 リポーターのアンジー(ゾーイ・サルダナ)に指示を出している。
 そして、登壇したアシュトン米大統領(ウィリアム・ハート)が
 演説中に何者かに狙撃され、
 更に演壇が爆破されてしまうというテロが起こる。
 ケント・テイラー(マシュー・フォックス)と共に警護にあたっていた、
 シークレットサービスのトーマス・バーンズ(デニス・クエイド)は
 何かが映っているのではないかと、
 テレビ中継車に乗り込み、撮影された映像をチェックしていると、
 その映像に何かを見つける。
 事件の直前に恋人ベロニカ(アイェレット・ゾラー)と
 ハビエル(エドガー・ラミレス)が親しげに話しているのを目撃し
 嫉妬していたエンリケ(エドゥアルド・ノリエガ)は
 事件の容疑者として拘束されそうになり、
 爆発の混乱に乗じてサマランカ市街へと逃亡を謀り、
 スワレス(サイード・タグマウイ)に話しかけられていた、
 アメリカ人旅行者のハワード(フォレスト・ウィッテカー)は、
 母とはぐれた少女を連れ、エンリケを追いかける。

 僕にとって思い出されるのは記憶がかな~り薄くなってる
 戦火の勇気 よりも、HERO だったわけですが、
 いい機会だと思って 羅生門 も観てみました。

 おもしれ~、三船敏郎のビックリしたと言うか、
 唖然とした表情がたまりません。
 映像的にも十分見応えあるし、
 50年以上前の作品でも面白さが変わらないのは、
 人間の本質を見つめようとしてるからなんだろうな。
 希望を、願望を感じさせるラストもいいよなぁ。
 羅生門 からは 十二人の怒れる男 や キサラギ を思い出す。

 偉そうに映画の感想を知ったかぶりして書いてますが、
 僕は黒澤明監督作は、なんとな~く晩年の作品が
 テレビ放送してるのを観たような記憶があるだけで、
 小津安二郎も、溝口健二も、成瀬巳喜男も、
 観た方がいいんだろうなと思っていても、
 全くの手付かずの状態であります。
 新作も追いかけたいけど、
 せめてリメイクされてる作品だけでも観ていきたいし、見比べたいよな。
 洋画だってそうだし、古い名作と、傑作と呼ばれる作品を観てって、
 映画経験値を付けていった方がいいんじゃないのかと思っちゃうよな。

 バンテージ・ポイントの感想に戻りましょ。

 大統領暗殺と、爆破テロという事件の謎を、
 その瞬間を目撃した8人の多重視点で、カメラの映像を巧く活かして、
 巻き戻しを繰り返しながら、謎を追っていく、
 非情に緊迫感溢れるサスペンスアクションであり、
 少しずつ真相に迫っていく様は、視点が変わることによって、
 徐々に真実に迫っていく様は、テンポもよく非情に心地よくもある。

 おっ何だ?と思ったところで、視点が移るタイミングも絶妙で、
 テロ組織の仕掛けは実に巧妙であり、こちらも騙されてしまい、
 その仕掛けを巧く導く人物の設定も面白い。
 かなり底は浅い描き方だが、複雑に絡み合う人間関係の中で、
 誰を信用すればいいのか分からない中で、カメラの映像が真実を伝え、
 計画は徐々にほころびをみせて崩れていき、事件を解決するのは…。

 観てる間は十分面白いし、退屈するようなことはなく、
 ホントによく出来た作品だと思いますけど、
 終盤はカーチェイスでハラハラ、ドキドキ、という面白さで、
 何だか素直に終わっちゃったなと思ってしまった。ホントに面白いんだよ。
 面白いんだけど、
 この作品から連想されるのは何故か セルラー だったりもする。
 B級っぽい面白さで、もちろんB級作品も好きなんだけど、
 傑作B級作品という印象もしないんだよな。

 8つの視点で、と言いながら巻き戻されるのが5回というのは、
 僕は2回や3回でもクドイと思ってしまったけど、
 初期段階ではホントに7回巻き戻って、ドンデン、ドンデン、
 とあったんじゃないだろうか。
 それが不評だったのでカーチェイスで見せ切ったのかもしれない。

 だって、使ってる俳優を考えたら、
 あの人が最後までいい人で終わるのも勿体ない気がするし、
 あの人もすっかり忘れさられちゃってるし、実は、
 というのが最後の最後まであると思ってしまっていて、
 ほくそ笑んでいる姿を想像しちゃったんだけどな。
 実に素直に終わっちゃったんだよな。

 僕がよく分からなかっただけかもしれないけど、
 刑事のこともよく分からなかったし、犯人側だって、
 あの人はどんな状態で頑張ってんだよと思い、
 彼らは大それた事をいとも容易くやってるようだけど、
 あの組織は何だったのか、何をしようとしてたのか、
 さっぱり分からず描こうとしなかったしな。

 多重視点で、カメラの目線だけはしっかりと現実を捉えているようで、
 その映像にも翻弄され、徐々に真実に迫っていき、
 全てを把握できているのは観ている鑑賞者だけというのも面白い。
 それだけに、
 あの人の変装を捉えたカメラは意図しないで撮れた映像ではなく、
 意図して撮った映像だったりしたら、もっと面白かったんだけどな。
 関係のないあの人も頑張って追いかけ、必死にカメラを回すのにも、
 安易な家族愛に繋がらないで、何かがあったら面白かったんだけどな。
 ちょっと贅沢か。

 観てる間は十分すぎるくらい面白い、秀作。

いきいき