迷子の警察音楽隊 : 映画評論・批評
2007年12月18日更新
2007年12月22日よりシネカノン有楽町2丁目にてロードショー
国を超えて多くの人々を“一目惚れ”させたシンプルな物語
カンヌ映画祭「ある視点」部門で“一目惚れ”賞を、本年度東京国際映画祭でも最優秀のサクラグランプリを受賞した。強者揃いの審査員たちが、心を鷲づかみされたのも良く分かる。エジプトの警察音楽隊が、文化交流の演奏旅行で訪れたイスラエルで迷子になって地元の人に助けられる。ただ、それだけのお話。両国がつい先日まで敵対関係にあったという歴史的背景など、余計な説明もない。だが、路頭に迷った音楽隊に、一宿一飯を提供した食堂の女主人の好意が、国家だって容易になしえない両国民の対話と友好を生み出していく。シンプルな物語の中に込められたささやかな希望が、観る者の心にほのかな灯をともしてくれるのだ。
イスラエル出身のエラン・コリリン監督は、本作品が長編監督デビュー作。幼少時代は、当たり前のように、エジプト人と同じ映画やドラマを見て育ったという。コリリン監督が手掛けた脚本には、自身の思い出も投影され、女主人と音楽隊の団長がドラマ話で心を通わせるきっかけを作る。何気ない会話の中に、宗教や人種が異なっても、同じ作品を見て感じる喜びや哀しみは一緒なのだということを訴える印象深いシーンだ。
世界にはまだまだ、争いを続けている国が多数ある。世界の縮図の物語であることもまた、国を超えて多くの人々を“一目惚れ”させてしまうのだろう。
(中山治美)