「 こんなお馬鹿な映画が読者やDMC信者以外に広範に受け容れられているのは、根底にあるメッセージをきちんと李監督が押さえているからだと思います。」デトロイト・メタル・シティ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
こんなお馬鹿な映画が読者やDMC信者以外に広範に受け容れられているのは、根底にあるメッセージをきちんと李監督が押さえているからだと思います。
映画にもなった『静かなるドン』のように、全く正反対の個性をもった主人公の二重生活を扱う作品は、その変わりように笑わされます。
本作も、ほぼ完璧に松山ケンイチが演じ分けています。これに『デスノート』のエル役も加えてみてみれば、ホントに彼はカメレオンのように別人格になりきれる俳優なんだと驚嘆せざるを得ないでしょう。
これに、「女王様」のようなサドっ気たっぷりの松雪泰子の女社長ぶりが加わることでこの作品の世界が完成したと言っていいでしょう。あとは、少々ベタの話になってもこの世界は崩れないと思います。
ただ映画的には、相当ベタな作品です。
手ぶらな崇一が突如クラウザーさんに変身することもしばしば。あれなら、不可思議な魔力でいつでも「ヘンシ~ン」できるような設定にした方が自然です。ただそうすると今の仮面ライダーの方がシリアスに感じられたりするかも知れません。
他にも荒いところは多々ありました。(何で東京駅から湾岸まで急いでいるのにマラソンするの?とかね。)
こんなお馬鹿な映画が読者やDMC信者以外に広範に受け容れられているのは、根底にあるメッセージをきちんと李監督が押さえているからだと思います。でなければ相川さんがメタルを嫌ったように、生理的に受け付けられない人がもっと出てきたでしょう。
崇一のような気弱な青年は、どこにでもいるものです。そういう人の気持ちをうまく代弁して勇気づけている点で、馬鹿な映画なんだけれど、すごく生きることに真面目に考えてエールを送っているところがあるのですね。
特に崇一がメタルに嫌気をさして、実家の帰ったとき、夢を大事にしろと励ますシーンは、すごくシリアスで、この作品には異質だけどよかったです。お母さん役の宮崎美子が崇一の正体を気づいたような気づかぬような微笑みで、見つめているところが絶妙でした。このシーンに違和感を感じる人も多いようですが、これがあればこそ、その後の崇一の頑張りが活きてくるのだと思います。
音楽的には、メタルはよく分かりません。でもかなり本格的だとは理解しました。特にジャックがガチバトルの時に繰り出す「ファッキンガム宮殿」はメタルの帝王の貫禄を見せつけていましたね。
残念なのは観客の信者ぶりがが少々演出過剰ぎみ。単なるオバカになっていることです。
ところで、エンディングテーマである「甘い恋人」今年7月より原宿アストロホールなどライブで歌っているカジヒデキの作品。オリジナルの曲は、きっとオシャレでカッコよく聞こえるはずなのに、クラウザーさんが体をクネクネしながら歌うとなんかヘン。まして崇一がナヨナヨ~と歌うとKYに聞こえてしまうのは、まさに松山ケンイチの演技のたまものでしょうか。
面白いけれど、評価は微妙。同じくキャラの濃い今月公開の『パコと魔法の絵本』と比べていただければ、クリオリティーの差は歴然としていると思います。