「負け犬が吠えるには理由がある」デトロイト・メタル・シティ Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
負け犬が吠えるには理由がある
本作を見て一言、「くっだらね~!!」。しかし、これはこの作品に限り、最大の賛辞だ。
カルト的な人気を誇るコミックの実写映画化は、いつも危険が伴う。ファンの中にその作品やキャラクターに対してのイメージが確立しているからだ。その点、本作はまるでコミックからそのまま抜け出してきたかのような完璧なビジュアル。「見た目」から入るのは一見軽薄のようだが、それは違う。見た目が変われば人格は変わるのだ。それは役者の役づくりだけの話ではなく、主人公根岸君の人生をそのまま体現している。オシャレなポップミュージシャンを夢見て上京した青年が、何故か理想とは正反対のデスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」のカリスマヴォーカリスト、ヨハネ・クラウザー2世として、カルト的な人気を得てしまう。このナンセンスなストーリーは、ここまで極端でなくとも、現実にはよくあること。心から好きなことができる「天職」につける人は、ほとんどいない。世の中には、自分の望んでいることではないが、そこに才能を見出し、「適職」として妥協することがほとんどなのだ。いや、その「適職」にさえもつけない人のほうが圧倒的に多い。根岸君は苦悩するが、それでもクラウザーさんの格好をしたとたん、我を忘れて地獄の使者になりきってしまう。これこそ見た目が変われば人格が変わる証明だ。
ナンセンスなストーリー展開でありながら、本作の主題は「夢を掴むこと、夢を与えること」。オシャレなポップミュージックで、人々に夢を与えることを理想としている根岸君は、好きな女の子にデスメタルなど負け犬の遠吠えだと言われてしまう。しかし、負け犬が吠えるのにだってちゃんと理由がある。その遠吠えに共感し、同じ夢を求める負け犬たちが世の中にはなんと多いことか。音楽のテイストが真逆でも、知らず知らずのうちに彼は、人々に夢を与えていたのだ。
いや、この作品にそんな理屈は何もいらない。何も考えず最大の賛辞を叫べばいいのだ「くっだらねー!!」と。