「映画を見たい人にはお勧めできない傑作」ミスト 猫まねきさんの映画レビュー(感想・評価)
映画を見たい人にはお勧めできない傑作
よくあるパニック映画、B級ホラーの形式を借りているが、化け物がメインではない。一番怖いのは、化け物ではなく、恐怖にさらされた人間の行動、とりわけ群集心理である。
町で変人扱いされていた狂信者の女は、異常事態の中、求心力を持ち、神の言葉をもって人々を扇動しはじめる。
結果論として、店長除いて、彼女と対立していた者は死に、彼女に従っていた者は生き残る。
生き残った者達から、彼女は真の預言者だったと言われるかもしれないが、
「恐怖」から一歩引いた視点から見ている鑑賞者からは、彼女自身が「恐怖」の発信者であり、エセ預言者だということは分かるだろう。
一方、主人公は「恐怖」に立ち向かい、現代人の行動規範として申し分ない行動をする。
一人の死にかけた男性のために、主人公は隣接している薬局に薬を求めて行く。主人公のこうした行動は、普通賞賛されるものだが、
結果論として複数の死人をだし、薬が必要だった本人も死んでしまう。
この両者の対立は善と悪の対立などではなく、ただ「恐怖」に対する対処方法が違うだけだ。
神にすがるか、立ち向かうか、自殺して根本的に逃げるか。
当初主人公側にたっていた学歴コンプレックスのおっちゃんが、薬局後、転向して神にすがったように、
主人公達も、恐怖を超えた絶望感の前に、転向して死を選んだにすぎない。
「恐怖」の前に悪も正義も法も神もない、ハリウッドでこんなバッドエンディングでよく企画通ったなと思ったが、
よくよく考えてみたら「恐怖」の前に神はいた。
主人公が引き金を引く前に踏みとどまって、最終的選択は神にゆだねるといった信仰の骨子を守っていれば、こんな結末はなかったはずだ。
しかし、主人公は神との約束よりも、息子との約束を守ってしまうんだよね。
日本人の宗教観ではちょっと分かりにくいかもしれないが、脚本・演出・演技。どれもお見事に尽きる紛れもない傑作。