「世の中に雑音なんて無い!」奇跡のシンフォニー Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
世の中に雑音なんて無い!
観終わると、世の中には雑音なんて一切無い!と思える。都会の雑踏の中で耳をすませば、人々のおしゃべりや靴音、クルマのエンジン音やクラクション、エアコンの室外機だって、お店の呼び込みだって、全てがみんな「音を奏でている」。それらの様々な「音」が、重なり合って生まれるのは騒音じゃない、立派な音楽、つまりは都会のシンフォニーなのだ。こう考えれば通勤ラッシュだってきっと楽しくなるに違いない。
名子役フレディ・ハイモア演じる主人公のエヴァンは、このように世界の全てのものに「音楽」を感じとれる奇跡の音感の持ち主。生れた時から両親の顔を知らず孤児院で育ち、仲間からのイジメにあいながらもグレることなく、いつか必ず両親とめぐり合えると信じて疑わないのは、この特異な音感を持つ者に与えられたピュアな心のために他ならない。音楽によって繋がる親子の絆、人と人との絆を描くヒューマン・ファンタジーだ。
物語は単純明快だが、時折ハラハラドキドキさせられて引き込まれ、通常なら「ありえねーっ」と思う展開も、全くすんなりと受け入れられる。その要因の1つは、劇中に終始流れる美しい音楽。もちろん天才少年エヴァンが奏でる神業ギターも、クライマックスでの交響曲も鳥肌がたつほど感動的だが、とりわけ印象に残るのは、エヴァンの両親となるチェリストの母とロックシンガーである父とのコラボレーションだ。これほどクラシックとロックが見事に融合するとは思いもよらなかった。ジャンルは違っても音楽への心は1つ…。
音楽によって導かれるのはエヴァンだけではない、彼に関わった全ての人物、そしてそれを見守っている観客の全てが音楽によってクライマックスへと導かれ、やがてはその奇跡に大きな感動を得る。ほとばしる音楽の波が確実に観る者の心に打ち寄せ、そしてその波が自然とひいた後には、洗われた心が残り、実に爽やかで清々しい気持ちにさせてくれる作品だ。