「時代絵巻。芸術の秋にふさわしい一本。」山猫 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
時代絵巻。芸術の秋にふさわしい一本。
と同時に、人生の折り返し地点に着たら、ぜひ秋の夜長に味わってほしい映画。
監督が紡ぎだす世界に圧倒される。腰を据えて堪能すべき。
時代の変革期。イタリア史に疎い私は、時折?となる。
私の不勉強のせいなのだが、そこが減点ポイント。
だが、映画に描かれている風俗にくぎ付けになる。
貴族の日常。召使。領地で農作物を作る人々。
避暑地への移動。
同じ国土に生を受けた人々同士の歩兵戦。
そして、噂に名高い舞踏会。「壁の花」という言葉はあるものの、実際は踊っている人だけじゃなくて、おしゃべりに興じる人、深夜の食事…。
時代を描いているが、革命軍と国王派の主義の違いなどは、見事に割愛。
ただ、”封建制度の頂点を為す公爵が選挙に来て投票する”様子を、当の公爵や、それを受ける選挙人・おつきの人々などの反応によって、時代が変わる様を映し出す。
山猫とは、公爵家の象徴であり、一つの信念で動く孤高の存在のことか?
獅子は当然、王家。
山犬とは、餌(利)を求めて嗅ぎまわるものの比喩?
羊は、当然、自分で判断せずに、”大いなるもの”に付き従うものであり、生贄にされるもの。
貴族というと搾取がすぐに頭に浮かぶが、領民が日々の生活を営めるようにしていた人々もいたであろう。困りごとに対応し、うまく運営できれば、WIN-WINの関係になる。
だが、資本主義の世となり、利用し、のし上がるものと、利用されるものに別れる。
そんな人間模様が端的に描き出される。
その様を下地にして、公爵の諦観が煌びやかに浮かび上がる。
「もう少し若ければ」
一族・領民のために、大局を見据える思慮深さと、必要なことを為す行動力・自分コントロールをもつ公爵。
これほどの人物だからか、これほどの人物なのにか。時代にのってひと花咲かせる才覚がありそうなのに、そう乞われているのに。
公爵の選択。
目先の利に敏く、時代の波に乗る甥との対比が、
美しくはあるがちょっと前なら表舞台に出られない、教養や品はないが生命力あふれる女性が、晩餐会の中央に出てくるという変化との対比が、
変わらぬ、公爵夫人や子どもたち。
公爵のたたずまい。
公爵家の有り様を際立たせる。
そんな時代の流れと、これからの人生の時の流れ。
この先の人生を考える時、公爵の想いにシンクロして胸をうつ。
1963年制作の映画。今より平均寿命がかなり短かったころの話。
そんな公爵が踊るワルツ。あんなに優雅で語り掛けてくるワルツを見たことがない。
原作未読。
(2019年ぴあ映画、2020年Yahoo!映画に投稿したものを、追記して再掲)