「令和の始まりに観てこそ意味がある」山猫 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
令和の始まりに観てこそ意味がある
中世から近世への変革期
社会だけでなく人間もまた変革されていく
サリーナ公爵とセダーラは支配階級の交代と貴族社会の終焉を
サリーナ公爵とタンクレデイは老若の世代交代を
それぞれの人物を通して描いています
このようにさまざまな切り口で、こういった洋の東西、古今を問わない人類不変のテーマを幾重にも重ね合わせています
最初の内こそ事情を飲み込めずに退屈してしまうかも知れません
しかし次第にその不変のテーマの重ね合わせに気付きだしてからは、いつしか3時間を超える長さも気にならないくらいに没入してしまうのです
イタリアの近世史に詳しく無くともテーマは誰にも理解でき共感できることなのです
忠実に再現されたであろう1860年のシチリアに於ける貴族社会の実相が見所でしょう
後半に長く続く舞踏会のシーンはことに有名です
もちろん日本人にはそれがどのくらい忠実であるのかは判断つきません
しかし21世紀に生きる日本人であっても幕末の頃を舞台にした映画の時代考証の忠実さはある程度は肌感覚で分かります
それと同じように本物の貴族である監督が本物を再現して見せているのは、映像の中の空気からハッキリと伝わってきます
見たことのあるような西洋絵画のそのままの光と色彩が画面にあります
絵画的なのではなく、西洋絵画が如何に現実に写実的であったのかの証明ですらあります
物語はまさに同じ時代の日本でもあったような物語です
大政奉還に揺れる地方の小藩の殿様の物語です
例えるならこうでしょう
御維新は時代の流れと諦めつつも家名を残す為には富裕な商家から嫁を迎えるのも当然と考えています
うまく立ち回って新政府軍に連なっている甥は、これからはこれくらいの才覚がなければと頼もしく見ます
野心ある若い彼にはアンジェリカのような強い女で無くては連れ添えない、コンチェッタなような古い時代のままに育った娘では足手まといになると
そして鏡に写る自分に老いを感じ
洋装、断髪は自分にはできないと知る
山猫の時代は去ったと主人公は最後に述べます
同じように21世紀の日本も時代は変わり令和となりました
山猫と獅子は去り、ジャッカルと羊の世の中なのかも知れません
古い世代の人々からは舞踏会の部屋で騒ぐ娘達を猿の様だと冷たい目で見られているのかも知れません
しかし新しい世代はタンクレデイの世代なのです
古い人間は夜道を一人歩いて退場していくのみなのです
令和時代の始まりにこそ観ておくべき映画でしょう