ライディング・ザ・ブレットのレビュー・感想・評価
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人生は弾丸のように過ぎ行く
久々に、勝手にスティーヴン・キング特集その14!
今回はB級ホラーテイストの強いロードムービー
『ライディング・ザ・ブレット』を紹介。
監督はテレビ版『シャイニング』をはじめ、
キング原作映画化を数多く手掛けたミック・ギャリス。
舞台は1969年。
大学のキャンパスライフを楽しむ主人公アランの
元に、母親が急病で倒れたとの報せが入る。
金のない彼はヒッチハイクで故郷の病院を目指すが、
そんな彼の行く手を次々と奇妙な出来事が妨げる。
ハッパでハッピーなヒッピー、情緒不安定なじいさん、
銃をブッ放すイカれた連中、とっくに死んだはずの父親、
そして最後に現れる死神もどきの存在は、
アランにとある究極の選択を迫ってくる。
果たして彼は母親の元へと辿り着けるのか。
主人公は「人が死ぬのなんて当然だ、命なんて
そう重くもない」と考えているような人間。
ニュースや物語で“死”を見聞きしただけで
“死”を理解したつもりになっていて、
“死”を恐れない醒めた姿勢を自分のスタイル
(言い換えればクールな所)と考えている節がある。
そんな彼が、この一夜を通して様々な“死”に直面する。
こう書くと深刻で恐ろしい物語のようだけど、
(まあ僕が書くと何でも深刻な内容っぽくなる気がするけど)
実際は“怖い”というより奇怪だったりブラック
なユーモアを感じさせたりでいかにもキング的。
『B級やねえ』と軽めに笑いながら鑑賞できる内容だ。
次々現れるクセの強い人物たちは面白いし、『タイム・
オブ・ザ・シーズン』『インセンス&ペパーミント』等の
ザッツ・'60sなステキなナンバーもガンガン流れて楽しい。
だが、主人公が行った選択が意外な方向に
転がる終盤で、物語の印象が一気に変わる。
人によってはひっそりとしたオチを拍子抜けに感じる
だろうし、最後の最後に若干『スタンド・バイ・ミー』
風味になるのを観て「あっちを意識してます?」
と穿(うが)った見方もしてしまうかもだが、
それでも僕はこの終盤に泣いてしまった。
奇妙でオフビートだった物語が、
一気に現実との距離を詰めてくる。
過ぎ去った日々への後悔。
手にしていたはずのものが、
いつの間にか離れていく寂しさ。
大切なものは次々に僕らの人生からふるい落とされていく。
だけど情けない事に――
それらがどれほど自分にとって大切なものかに気付くのは、
大抵の場合、それらがふるい落とされてしまった後の事だ。
タイトル『ライディング・ザ・ブレット(弾丸に乗る)』は
幼かった頃の主人公が怖くて乗れなかった、遊園地の
ジェットコースター、“ブレット”に由来している。
幼い頃の恐怖、そして優しい母親を怒らせた苦い記憶。
ノスタルジーというやつはいつも後悔の念と共に訪れる。
人生は無慈悲なほどの速度で直進する一発の弾丸だ。
良い事も悪い事も関係なく、次々後ろに残して過ぎ去ってしまう。
僕らは必死に、その弾丸にしがみついて生きなければいけない。
主人公の苦い記憶の描き方が淡白であるなど諸々不満はあるし、
全体的にはまったりテンポのB級ホラーな印象が強いけれど、
清々しい余韻が残る、予想外の佳作。
気が向いたら御鑑賞あれ。
<了> ※2013.09初投稿
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