「日独で敗戦決定直前を描く2作品で両者の違いが色濃く表れている」ヒトラー 最期の12日間 閑さんの映画レビュー(感想・評価)
日独で敗戦決定直前を描く2作品で両者の違いが色濃く表れている
「日本のいちばん長い日」と続けて鑑賞。日独で敗戦決定直前を描く2作品で両者の違いが色濃く出てるのが面白い。
ヒトラーの場合はやはり独裁者ヒトラーへの崇拝に近い忠誠心と、それゆえに明らかな負け戦な状況でも誰も何も言い出せないという状況が印象的。ヒムラーとか最後に命令無視したゲッペルスとか何名か裏切る人は出るものの、一方でベルリンが陥落寸前なのにいまだに赤狩り続けてるSSとか一周回ってギャグかってくらいのガチガチのピラミッド制。これが「日本のいちばん長い日」だと内閣の誰も決めきれない、文言がどうこうで延々議論してる、天皇にご聖断を仰いでようやく決めるが若手将校が公然と反旗を翻すし周りも明確に止めないというグダグダな組織で正反対。
崇拝に近い忠誠で構成されているからこそ、取り乱し陸軍を罵ったり、どうみても負け戦なのに反攻に固執するヒトラーの姿がひたひたと近づいてくる敗戦の悲哀を高めている。表向きな遺言では国民のためといいつつ、裏では国民の命なんかどうでもいいような発言をしたり、最後の最後に結婚式を挙げたりと案外フツーの人間として描かれていたのは、やたらと最恐最悪の悪魔のように描かれがちなヒトラーとはまた違ってて、その描き方の政治的な良し悪しは別として、こういう形でのヒトラー映画というのもアリだなあと思った。
周辺の人物では特にゲッペルスが印象に残る。宣伝戦でナチスを支えた人物として遺言書もやたら細かいし、どうみても窮地なのに言葉を弄してヒトラーを援護したりと、陰キャっぽい役者さんの顔もあわせてヤな感じの人物(笑)。一方でそんなゲッペルスも家族がいて子供たちを毒殺したりと…ヤなヤツもヤなヤツなりに悲劇的な死に方をしていく…。印象的な人物といえばヒトラーの愛人・奥さんのエヴァも。暗い塹壕生活を元気にするためかパーティ開いたりなんたりするけどどことなく空回りしてる感じ、こんな戦況にあってもヒトラーとの二人の関係という小さい世界にしか興味ないしそれを守ろうともがいてる感じが悲壮感を出している。
それ以外の人物はこれは映画の問題ではなく自分の問題なのだけど、ナチスドイツの人物をあんまり知らないので途中から誰が誰やら、だんだん全員同じ顔に見えてきて…(笑)。もうちょっと歴史の勉強が必要だなと感じた。ヒムラーとかはSSのトップで反ユダヤ主義の中心人物なのでむごたらしく死ぬかと思ったらほとんど出てこず(まあ史実どおりベルリンにいないからしょうがないけど)。
ヒトラーの最後にだけスポットがあたっていて戦争責任とかにはちょっこっとしか触れてないのはドイツ的にいいんだろうかとか思うとこはあるので少し星を減らして。あと全然関係ないけどこれ見た後に総統閣下の嘘字幕シリーズみると本編との温度差とそら耳に爆笑できるのでぜひ見てほしい(笑)