「世界の統合と地域の独自性と」スパニッシュ・アパートメント よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
世界の統合と地域の独自性と
統合なった欧州の各地からバルセロナに留学のため集まった若者たち。大学では経済のグローバリズムについて学ぶ。しかし、互いが異なる国籍、異なる言語の持ち主であることを意識せざるを得ない。まして、グローバリズムの授業がスペインの標準語ではなくカタロニア語で行われるのだ。
そして男と女の違い。それだけではなくそこには同性愛者も存在する。
冒頭に近いシーンでアフリカ系の若者が、自分の中で二つのアイデンティティが矛盾なく存在するということを語っている。この映画は、主人公グザビエが一年の留学を経て、様々なアイデンティティが存在するこの世界を知り、そこから自らのアイデンティティを作りかえていく物語である。
世界が一つのものさしで測られる時代。共通の経済原理が働く人間の活動。このように一見すれば、単純で単一な世界観が我々の生活を覆うように感じるが、現実は異なる。世界の統合が進めば進むほど、人々の活動範囲が地球規模になればなるほど、狭い地域の独自性が際立ってくるということが、グザビエらのアパートでの共同生活に象徴される。
この作品の公開から10年経ったいま、スコットランドの独立を問う投票が行われたり、カタロニア、バスクの独立問題が再び熱を帯びてくるなど、地域の独自性を尊重する運動が高まっている。
情報通信や交通の発達で地球が小さくなるほど、異文化どうしが接触する機会は増えてくる。この映画の登場人物たちのように、自他ともに尊重し、異なることから楽しみや新たな価値観を得ることの出来る関係を築いていきたいものだ。
映画では民族問題や経済問題など堅苦しいことには直接言及していない。グザビエというフランスの若者の視点を通して、混沌へと向かう時の恐れと混乱、生まれ育った土地と人々への惜別の感情、未知の世界に触れ新たなアイデンティティを獲得する喜びを分かりやすく生き生きと描いている。若者の屈託のなさが画面いっぱいに広がる気持ちの良い作品だ。