「子のない父、父のない子」息子のまなざし つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
子のない父、父のない子
オリヴィエは職業訓練所で大工仕事を教えている。本人曰く教えることが好きだという。
幼い我が子を失ったオリヴィエは、いつか子どもにも教えたかったという想いがあることだろう。
作中で一度も呼ばれることはないが少年の名前はフランシス。
彼は父親がなく、母親の恋人からは煙たがられているようだ。家に、家族の元に居場所がない。
そのせいなのか、日本人の感覚では熱心に見えないかもしれないが、仕事を習得しようと頑張っている。
折尺を延ばせ畳めと理不尽に思えるような指示にも素直に従う従順さもある。
フランシスだってまだ子どもだ。どこかで父親を求めようとする感情はあるだろう。
それは、熱心に指導してくれるオリヴィエに自然と向き始める。
目測で距離を測れるという些細なことであっても純粋にすごいと思える部分があることも大きい。
人の感情というものは白か黒かなどとハッキリしていることのほうが珍しい。多くはグレーだ。
我が子を殺した男に対する憎しみと、自分を父親のように慕ってくることに対する愛情の狭間でオリヴィエの感情は揺れる。
クライマックス、オリヴィエの感情はグレーに固まった。だからこそ唐突に秘密を打ち明けた。
もうオリヴィエの中で隠す必要がなくなったからだ。
しかし咄嗟にフランシスは逃げ出す。揉み合いになったあと、一人作業に戻るオリヴィエ。そこへ泥だらけのままフランシスは現れた。作品パッケージになっているショットだ。
オリヴィエにとってその姿は、復活し戻ってきた我が子に見えたかもしれない。
ラストは、無言のまま共同作業をする二人の姿。
初めての作業であるにもかかわらず、教えたり指示しなくても協力し合えるというのは、想いが一つになったということではないだろうか。
オリヴィエに密着する手持ちカメラによる長回しの多用は、本作よりかなり新しい「サウルの息子」のようにインパクトのある緊張感を創出する。
後半になり密着するカメラが少し引き気味になるのは視野の広がったオリヴィエの心を表しているよう。
「言葉」ではないところで物語を伝えようとするダルデンヌ兄弟はいい監督だなと思うと同時に、もしかして結構好きなのかもしれないと、うっすら感じ始めている。