劇場公開日 2024年2月24日

「最高」ヴェルクマイスター・ハーモニー Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0最高

2024年3月17日
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よく調整された音律(平均律)は、自然の音色(古典音律)と比べて均一で便利だ。現代人の生活は平均律の音に溢れている。
平均律に慣らされた現代人は、神の領域のうなりを察知する能力が退化しているのか。個性豊かな至福の音律は忘れ去られ、平均化された欲望に操られながら不満と鬱憤を募らせる。

音楽家の老人エステルは18世紀の音楽家ヴェルクマイスターを批判している。私には、人間が古典音律を聞く聴力を失うことへの警鐘に聞こえた。

『サタンタンゴ』では、サタンは無垢な少女にも欲望のタンゴを踊らせ、か弱い猫を犠牲にするというシーンが描かれていた。今作は『ヴェルクマイスターハーモニー』の名の通り、サタンは調律された心地よい扇動者の〝声〟によって人々を踊らせた。

冒頭の酒場でのシーン。太陽男は手をゆらゆらさせているだけ。地球男がのんびりとその周りを回り、月男は慌ただしく地球男の周りをあくせく回っていた。

太陽男がサタンだとすると、その引力で回る地球男が扇動者、そして、もはや自分が何のために回っているのかも理解できず踊らされる月男が、愚かな人間ではないか。

至福を引力に自由にダンスするには、誰かに調律された音ではなく、自然界に即した古典音律を聞ける聴力を取り戻さないといけない。

天文学を愛するヤーノシュは自然の音律を聞ける人だ。ところが箱の中のクジラ(トリック)に魅了され、策略に利用され、ついにヘリコプターの爆音でやられる。

自我(言葉)を失うという大き過ぎる代償を払って、扇動者の声をシャットアウトしたヤーノシュ。サタンの軍門に下らなかった彼に、唯一エステルとの友情は残っていた。

全てのシーンが圧倒的。他の追随を許さない映像の力に度肝を抜かれっぱなし。タル・ベーラはいつだって最高の映像体験の旅に連れて行ってくれる。

Raspberry
iwaozさんのコメント
2024年3月20日

まだまだ9割以上、理解不能でしたが、
ダンスシーン、群衆シーン、広場の炎上、戦車の走行、長い歩き、リアルクジラと恐怖のプリンスの影、暴動シーン、ヘリコプター旋回長回しシーン、等々、これまでに観た事がない映像の迫力にやられました。
ドライヤー監督以降、これほど神の視点?を見せられるのはタルベーラ監督しかいないように感じました。
(><) 畏怖、畏敬、の映画ですかね

iwaoz
iwaozさんのコメント
2024年3月20日

この世界の独裁者(煽動者)となっている、、
そのように聞こえました。
しかしそれ以上に全てのシーンが
ほぼ長回しですが、1枚の宗教画のようにカメラの動くスピード、角度、構図が全て完璧にコントロールされているように見えました。
名画を前にした時に多くの人がその前で足を止めて、中に描かれた人が動いているシーンを想像しているかのように映像化されているのに驚愕でした。((((;゚Д゚)))))))

iwaoz
iwaozさんのコメント
2024年3月20日

レビューありがとうございます!
サタンタンゴも観て理解不能でしたが、そういう観点があるんだと目から鱗です。m(_ _)m
ベルクマイスターについてエステル叔父さんが口述録音メモ?で述べていた所が印象に残りました。
全ての人が心地よい7音に洗脳され
それ以上の思考を止めてしまっている。または古代において、人間はもっと限られた不完全な生活(音)のみで満足していたのに、より快適な生活を求めて、神の領域を冒し、、

iwaoz