「さすが衝撃のデビュー作」フォロウィング 稲浦悠馬 いなうらゆうまさんの映画レビュー(感想・評価)
さすが衝撃のデビュー作
・尾行趣味の主人公
主人公の男は尾行が趣味だ。
通行人を見つけては尾行をしている。なぜなら人の私生活が気になって仕方がないからだ。
ただ決して相手に危害は加えず気付かれることもない。少なくともしばらくはそうだった。
・泥棒の男
だが尾行男はある日、はじめてその尾行を気づかれてしまう。
そしてカフェで相手の男に問い詰められる。だが話して行くと、驚くことにその相手は本職泥棒だった。
しかも完全に金品目的の泥棒ではなく、空き巣に入ることで人の私生活を覗き見するという尾行男と同じような趣味を持つ人間だっだ。
泥棒は尾行男を誘い、二人組で人の家に空き巣に入るようになる。
・BARの女
尾行男はBARで女と出会う。そして恋仲になるのだが、その女は前に空き巣に入られたと話す。
なんと泥棒男が前に空き巣に入った家の女だったのだ。
・女とハゲ
女はまた別のハゲの男と微妙な関係にある。(劇中でもこの男は何回もハゲと呼ばれるのでちょっと笑ってしまった)
ハゲはちょっとした権力者で、かつて女の部屋でまた別の男をハンマーで殴り殺したことがある。借金を背負った男の指を砕き、頭を砕いたのだ。
なので女はハゲを怖がってきっちり別れることが出来ずにいる。
そしてハゲは金庫に女の写真を保管しており、それが女の弱みとなっている。
なので女と恋仲である尾行男は彼女のためにハゲの本拠地に乗り込み、金庫の中から金と写真を盗み出すのだ。
だがそこでハゲの手下に見つかり、手下をハンマーで殴り殺してしまう。
・女の裏
尾行男はハゲの金庫から盗みを働いた後、怒りを感じながら女の元に駆けつける。
なぜなら彼が取り戻した写真は女の弱みを握るものでもなんでもなかったのだ。女の目的は単に金だったのか?
そこで女は真実を尾行男に告げる。
実はこれは女のためではなく、女の別の愛人のための犯行計画だったのだ。その愛人とはなんと、尾行男が最近行動を共にしていた泥棒男のことであった。
・泥棒音の罪
事の顛末は、泥棒男がかつてどこかの家に泥棒に入った時、すでにその老女は誰かによって殴り殺されていた。
それで泥棒は警察に呼ばれるが、どうやら罪を着せられそうで身が危ない。
そんな時、自分のことを尾行する男の存在に気づき、尾行男を泥棒に仕立て上げ、わざと自分の女にハニートラップを仕掛けさせて、最後には泥棒男と似た手口の反抗をさせて、自分の身代わりに濡れ衣を着せようとしたのだった。
・尾行男の出頭
自分も人を殴り殺すという罪を犯してしまった尾行男は、警察に出頭する。そして真実を全て告白するのだった。
泥棒男のこと、その女のことや、自分の犯行や、誰かに殴り殺された老女のことなどをだ。
しかし警察は老女のことなど知らないと言う。まさか。何故か。
つまり尾行男は多重的な罠にハメられており、殴り殺された老女など存在しなかったし、泥棒男の存在の痕跡を残すものもひとつもない。泥棒男は雲のように証拠を残さずに消えてしまい、残されたのは単に罪を犯した尾行男だけだ。
しかも尾行男が自首したその朝、女も殴り殺されていたことが尾行男に告げられる。
・殺された女
殺された女は泥棒男の愛人であり、一緒に尾行男を罠にかけたかと思いきや、まだ裏の真実があった。
女は権力者のハゲの殺人をネタにハゲをゆすっていた。以前そのハゲに女の始末を依頼された泥棒男は女に取り入り、女の愛人となり、金庫の金と引き換えに最後には女を始末したのだ。
だが女を殴り殺したハンマーには、尾行男がハゲの手下を殴り殺した血もついており、疑われるのは尾行男だけ。
このように、本作は多重的に仕掛けが張り巡らされている劇であった。
・映画館で観た感想
非常に良かったし見応えがあった。上映時間は70分だしちょっとした小作品かと思いきやだ。
「オッペンハイマー」を観てクリストファー・ノーランという監督にはじめて興味を持って本作も観に行ったわけだけれど、デビュー作がこれというのは確かに衝撃だろう。
監督、脚本、ショットもクリストファーノーランとクレジットされていたので、自分でカメラを回したのだろうか。
オッペンハイマーでもそうだったが、クリストファーノーラン監督は時系列をバラバラに配置して観客を混乱させて、こちらに考えさせるのが好きだなと思った。僕もそんな映画は好きだ。
本作では作中できっちりと種明かしもしてくれるので親切だとは言える。
・会場
もうそろそろテアトル梅田に名前が変わるシネリーブル梅田にて。
客席はけっこう埋まっていた。おそらく僕みたいにオッペンハイマーで興味を持って観にきた人が多かったんじゃないだろうか。
・70分
70分は時間だけ聞くと短い印象だが、映画をいざ観終わってみると決して短い感じはしなかった。
この世の全ての映画が70分から90分ぐらいになれば良いのにと思う。3時間もスクリーンを観続けるのはなかなか集中力がもたない。
と言いつつオッペンハイマーは3時間の大作だったけど。
・なぜ白黒なのか?
1998年の作品らしいが、何故か白黒だ。舞台設定がおそらくCD全盛時代ぐらいなので、その時代の感じを表すのに白黒が選ばれたのだろうか。
デビュー作ということもあって決して潤沢な予算はなかっただろう。切り落とすべきところは切り落として狙い澄ましたように名作を作り出したノーラン監督。なんとなく白黒は映画ファンの受けも良さそう。
さすが。
「この世の全ての映画が70分から90分ぐらいになれば良いのにと思 う」
同感ですね。
70分でも、こんなにおもしろい作品ができるとは。
解説、わかりやすくて、頭の中が整理されました。ありがとうございました。