失われた週末のレビュー・感想・評価
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【大酒飲みには、非常に恐ろしいアルコール依存者の苦悩と葛藤に苛まれる姿を描いた作品。”強制禁酒特効薬映画でもある。”酒は魔物です・・。】
■売れない小説家のドン(レイ・ミランド)は、アルコール依存症から立ち直るため、兄の計画で週末を一緒に田舎で過ごすことになっていた。
しかし、ドンは兄や心配する恋人ヘレン(ジェーン・ワイマン)に嘘をついて町に居残り、バーにより酒を飲んでしまう。
そして、彼は酒のためにバーで居合わせた隣の女性のバッグを盗み、酒ビンを盗み、ドンドンと”酒に呑まれて”行く。”のである。
そして、彼は気づくと依存症収容施設のベッドに横たわっているのである。
そこで、彼が見たモノは、夜な夜なアルコール依存による幻覚に怯える患者の姿であった。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作は、酒好きで、且つ飲酒量が尋常でない者にとっては、非常に恐ろしい映画である。
・当たり前だが、酒は飲むと一時的な多幸感に包まれる。特に酒に強い体質であると、酔っても余り表面上は出ないために、周囲も”お酒に強いですね。”などとおだてて、調子に乗って酒を飲み続ける羽目になるのである。
・今作のドンも、見ているとバーでショットでグイグイと煽っている所を見ると、相当に酒に強い男の設定になっている。
だが、酒に強いという事は、逆に言えば”アルコール依存症”になり易い事をでもあるのである。
・今作が恐ろしいのは、ドンが落ち込んでいても酒をバーで一杯飲むとそれまでの苦悩を忘れたかのように、酒を飲み続ける姿である。
・更に言えば、恋人のヘレンや兄が心配し、酒を隠していても、作家にとっては命であるタイプライターまで質屋に入れ、金にして酒を飲む姿である。
■ドンが、夜に壁に鼠がいる幻覚を見て怯えるシーンは、最早ホラーである。名匠ビリー・ワイルダー監督の、効果音や、ライティング、ドンのヤツレタ表情などの演出が実に効果的である。
ドンを演じたレイ・ミランドの、迫真の演技がコレマタ怖いのである。
<今作を観ていると、ドンの周囲の人達が彼に甘すぎる気がするが、時代的なモノだろうか。金がないドンに”もう一杯だけ”と請われ、グラスに酒を注ぐバーテンの姿など。
それにしても、自分の人生に絶望し、拳銃自殺しようとしたところにヘレンがやって来てそれを阻止しようとするシーンは、ドンが如何に恵まれたる男かが分かる。
ヘレンや、ドンの兄の様な人が居ないヒトは、アルコール依存の底なし沼に嵌っていくのであろう。
酒は飲んでも飲まれるな、とはよく言われるフレーズであるが、正にその通りである。特に体質的に酒に強い者は”連続飲酒”(24時間酒を飲み続ける事。)は厳禁であり、且つ最低週に一度は休肝日を設けなければイケナイのである。
今作は、酒好きにはとても恐ろしき作品でありました。>
La traviata / Act 1: 乾杯の歌~歌劇『椿姫」よ...
La traviata / Act 1: 乾杯の歌~歌劇『椿姫」より
このオペラを
初めて見ると、最初にこの有名な曲が登場する。
でも、その後の方がこのオペラを傑作にしているのに。
さて、この映画を見て、我が親父が言っていた。『馬鹿な男だね。後先考えずに飲むから悪い。幻覚が現れるまで、飲むなんて』
親父は大酒飲みだった。しかし、朝酒は飲まないと決めていた。お陰様で『PLAN75』が近づいても酒を飲んでいた。彼の不規則正しく飲む作戦は成功したかに見えた。所が、まさに『PLAN75』の年に脳溢血になって倒れた。前の日に酒を飲んでいたようだ。さて、実はそれで死んでしまえば良いのだが、半身不随になったのである。つまり、寝たきり。そして『PLAN75』を考えた人には怒られるだろうが、それから5年も税金の無駄遣いをして、生きてしまったのである。その親父の言葉が『もっと早く酒やめていれば良かった。』である。
私がこの映画を見て気になった事は、あんなに沢山物があって、何故タイプライターを質に出そうとするのか?と言う事と、カーネギーホールでブラームス、ベートーヴェン、ヘンデルってどんなプログラムだったのか?と言う事と
看護師が『これを飲みなさい』って差し出した薬のような物が実は『ダブルのウィスキー』なのでは?って事と
アメリカのタバコはこの頃フィルターが付いていたんだって言う事かなぁ。
さて、この映画を鑑賞して思う事は、アルコールの恐怖というよりも、物質とお金と言う経済のからくりの恐怖だと思った。つまり、お金が無いと何も買えない。街は華やかに着飾っているのに、金が無いと何も出来ない。そんな恐怖を感じた。それは資本主義とか共産主義とか関係無い。経済が金で動いているのは、イデオロギーとは関係無い。どちらも金で成り立っている。そんな印象をこの映画を見て思った。
レイ・ミランドに殺気を感じた
最後に観てから20年以上は経っていると思うが、レイ・ミランドの鬼気迫る演技は色褪せない。冒頭の旅支度をするドンと兄のウィク。何かソワソワしているドンに、ウィクは話しかけるが、何も耳に入ってこない。ドンは、窓から紐で吊っているウイスキーが気になって仕方ないのだ。その病的なまでの様子が、酒を飲みたいという欲望の深さを感じさせる。
この作品は、脚本家時代のコメディ路線とは違う。笑えるようなシーンは、全くない。只々、アル中の主人公ドンの転落していく姿を描く。酒を飲むためには、嘘をつき、お金をくすね、泥棒までしてしまう。ところが、ドンは、酒を飲むためには仕方ないのだと自分に言い聞かせて、悪びれるところがない。一人の男が落ちていく一辺倒な話なので、飽きてきそうな内容なのだが、レイ・ミランドの怪演のおかげで、スリリングで飽きるどころか、どんどん引き込まれていく。このままエスカレートしていったら、人も殺しかねない殺気を帯びている。
ドンは、自分の存在に嫌気がさす。恐らく、この病気の最終型は、精神的に追い詰められるか、酒のために肉体を病むかどちらかでしかない。彼は自殺を試みる。しかし、恋人のヘレンに説得される。そして、彼女の説得が効いたか、ドンは自殺を思いとどまる。ラスト、これまでの展開が嘘のように、口当たりが良すぎる不気味なものだった。しかし、再起を口にするドンに更なる恐怖を覚える。背筋が寒くなる。彼の口から出る言葉は果たして本心なのか。ヘレンはおろか、ドン自身までも欺く病魔の罠ではないだろうか。四半世紀経っても、まだまだ楽しませてくれる傑作だ。
主人公がクズ
主人公がイケメンなのにアル中のワナビーでニートで虚言癖があり、お酒をどうやって誤魔化すかということばかり考えているクズですごくよかった。そんな男に入れ込む彼女も美人で気の毒で可愛らしかった。
最終的に作家で成功を収めそうな、この映画の物語自体が彼の自伝であるというような結末だったのだが、どうにもならずアル中で死ねばもっと気持ちがいいのにと思った。才能や野心に食いつぶされて野たれ死ぬような話が大好きである。
依存症へ至る挫折と弱さ
総合:70点
ストーリー: 70
キャスト: 75
演出: 70
ビジュアル: 60
音楽: 65
才能溢れる若き日の自分は、将来の成功を信じて疑わなかった。それなのに現実を突きつけられて、何度挑戦しても挫折を繰り返してしまって自分の弱さを制御出来なくなる。主人公ドンのアルコールに溺れるそんな過程がよく描かれていて、何故にこうなってしまったかが納得できた。同じアル中を主題にした映画の「男が女を愛する時」は、弱さに言い訳つけて依存症になるのに無理やり綺麗な理由づけをしようとしていたように見えたので、こんなふうに正直に挫折と弱さを見せてくれたほうが素直に受け入れられる。
他にこの映画で良かったのは登場人物。見ていて殴り飛ばしたくなるほど脆さを制御出来ない情けなさ丸出しの主人公に加え、面倒見の良い兄と献身的な彼女と厳しさと優しさの同居するバーテンダーが主人公の周囲で物語を紡ぐ。いい人だらけでなぜここまでしてくれるのかと正直疑問符がつくくらいだが、なんとかしてやりたいという愛情や人の情けの大切さをわからせてくれる。依存症は個人だけの問題でなくて周囲を巻き込むし、また個人で解決出来る問題でもないということを描いている。
アルコール依存症は依存症という病気であり体に起きる化学反応であるから、酒をやめようという意思だけで簡単にやめられるものではないと聞く。何年もやめられなかったものがこれで解決するとは到底思えなくて、結末にはあまりに楽天的すぎるゆるさがある。男の情けなさに途中いらいらもしてくる。依存症の解決だけの話ならば、もっと専門的な治療法を組み込めばいい。だがアルコール依存症の話だけにとどまらず、夢破れて苦悩し挫折しもがきながら落ちていった男の絶望の半生と、なんとか彼を立ち直らせようとする周囲からの救いの物語が良かった。
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