「決して一枚岩にはならない」わが谷は緑なりき 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
決して一枚岩にはならない
1941年。ジョン・フォード監督。イギリス・ウェールズの炭鉱町。誇り高き炭鉱夫とその家族の物語を末息子の視線から描く。ストライキ、事故、合唱隊、教会、階級という職業や共同体のあり方と、学校、結婚、恋愛、出産、父離れという家族のあり方がそれぞれ時に分裂し、特に結合しながら複雑にからみあっていく。決して一枚岩にならないところがすばらしい。
ロケーション最高。坂の上の炭鉱とその途中にある労働者の街並みの物語上の効果がすばらしい。普段は仕事終わりの炭鉱夫たちが歌いながら坂をだらだらと降りてくるのだが、一端なにかあると、人々は息せき切って坂を駆け上がる。歌が好きな人々が時折合唱するのもすばらしいし、主人公が抑揚をつけて家族の名を呼ぶのもすばらしい。冒頭で姉の名を呼んでいた主人公がラストで事故にあった父を探すときにその独特の呼び方をする。心が震えます。
歩けない主人公が小高い丘の上で花に囲まれて歩き出すシーンは「ハイジ」そのもので、フォード監督が宮崎駿監督(アニメ版)より早く世界的にヒットしたハイジの原作を自分のものにしていることがわかる。むしろ、原作にはないアニメ版「クララの意気地なし」に近い関係が描かれているのだから、この映画を見て宮崎駿監督の数々の名場面が着想されたのかもしれない。炭鉱町を扱った「ラピュタ」には鉱山の男の喧嘩シーン(ボクシング的)があったし。ただし、宮崎監督は一般的に近代黎明期の「蒸気」の時代に執着しているので、特定のこの映画ではないかもしれないが。
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