劇場公開日 1950年12月29日

「郷愁と家族愛の最上の名画」わが谷は緑なりき グスタフさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0郷愁と家族愛の最上の名画

2020年4月16日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD、映画館、TV地上波

巨匠自ら最も愛した全盛期の代表作。名作「駅馬車」「怒りの葡萄」に連続して創作されたことが奇跡に等しい。敢えて例えるならば、モーツァルトの後期三大交響曲の名曲誕生に匹敵するといっても過言ではないと思います。

個人的な鑑賞履歴をいうと、初見は中学時代に淀川長治さんの日曜洋画劇場で観ました。その時はほとんど気にも留めない印象でした。しかし淀川さんの名解説を聞き逃さず、映画の見方や解釈の仕方を自分なりに勉強していくと、数年で演技や演出について何となく解るようになり、そして、またテレビではありましたが再見の機会が17歳のときに訪れました。チャップリンの一連の名作が立て続けに公開されていたビバ!チャップリンの時代です。「黄金狂時代」を超える映画は無いな、と独り悦に入っていたら、並んでしまったのです。これ以来、私にとってチャップリンとフォードが映画の神様になりました。
それから約10年後、新宿の名画座でリバイバルがあり漸く劇場鑑賞することが出来ました。終演後ロビーである初老の紳士がしみじみと感動のため息をつくのをニンマリと聞いたことまで忘れません。

この作品の演出の素晴らしさを一つだけ挙げるとしたら、それは望まぬ結婚に身を置くモーリン・オハラのウェディングドレスの長いベールが、教会から馬車に向かうシーンで風に煽られて舞い上がるところです。”心、ここにあらず”をモーリン・オハラの表情と眼に見える造形で表現するフォード監督の演出に、私は唸りました。のちにフォードの記録映画にて、あるインタビュアーに、(丁度いいところで風が吹いてくれて、フォード監督は運がいいですね)の内容を尋ねられて、(とんでもないです。あれは意図的に監督が吹かせたのですよ)と一笑に付すモーリン・オハラのエピソードを紹介しています。映画の中で、風を最も上手く活かした人が、ジョン・フォード監督だと思います。

Gustav
Gustavさんのコメント
2021年11月5日

るーさんへ
コメントありがとうございます。風は女性にとって天敵ですが、映画の中の風は女性を更に美しく見せますね。モーリン・オハラは後に、確か「静かなる男」の撮影中の風をもろに受けるシーンで、長い髪が目に入り痛い思いをして、フォード監督に直接苦言を呈したそうです。禿げ頭の監督には理解できないでしょう、と本気で怒ったようです。そんなことが言える監督と女優の関係がユーモラスで微笑ましいですね。映画では時に女性を乱暴に扱うシーンを好むフォード監督ですが、女性に対してとても紳士的な姿勢の本質は多くの名作から窺えます。女優を美しく撮り、大切に扱うフォード監督のそんなところも、私が敬愛する理由の一つです。

Gustav
るーさんのコメント
2021年11月5日

初めまして♫
花嫁の長いベールが、風でふわぁ〜っと舞い上がり、それを花婿が手で止めたシーン。本当に美しいシーンで見惚れました。
監督の思惑だったとは、さすがですね。貴重な情報をありがとうございました。🙇‍♀️🙆‍♀️🙇‍♀️🙆‍♀️

るー