「頑固一徹の主人公に遠藤周作のキリスト感が思い出されたが…」わが命つきるとも KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
頑固一徹の主人公に遠藤周作のキリスト感が思い出されたが…
フレッド・ジンネマン、「地上より永遠に」に続いて2度目の
アカデミー賞作品賞・監督賞W受賞作品だ。
ヘンリー8世にまつわる映画、
この作品の数年後に
「1000日のアン」という作品もあったが、
若い方々にとっては「ブーリン家の姉妹」の
方が馴染みがあるかも知れない。
私にも若い頃があって、
「1000日…」「ブーリン…」とは視点の異なる
この「わが命つきるとも」を観て、
自己犠牲の精神をもって権力者を諫める
トマス・モアの生き様に
共感したことを思い出す。
今回は、トマス・モアは生きて国王を諫める
道はなかったのかの観点で再鑑賞した。
しかし、彼は
融通の利かないの頑固者のように描かれる。
序盤の枢機卿の
「お堅い道徳心を捨てれば、
立派な政治家になれる」との台詞は
現代にも続く政治の世界への皮肉りだが、
モアが信念を捨てることはなかった。
追い込まれたモアは“沈黙”で
国王の再婚に抵抗したが、受け容れられず
断頭台の露と消える。
遠藤周作の「沈黙」が思い出される。
踏み絵に足を、己の心さえ裏切らなければ
ここは耐えて
再び国王を正すチャンスを待てば、と。
ラストのモノローグで
彼を死に追いやった面々の
悲惨な死が語られるが、
実は、ヴァネッサ・レッドグレイヴ扮する
再婚相手のアンもいずれ斬首されることを
他の映画等から我々は知っており、
歴史的にこの映画で描かれる
ヘンリー8世に関しての悲劇は、
単なる序章に過ぎなかったように思える。
この作品、「地上より永遠に」に比べると、
少し作風が硬い印象だったが、
レッドグレイヴがジェーン・フォンダと
共演した、ジンネマン作品としては
キネマ旬報最上位にランクイれた「ジュリア」の作風はどうだっただろうか。
次回予定の「ジュリア」再鑑賞が
益々楽しみになった。