浮き雲のレビュー・感想・評価
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滑り続ける人生
時代設定は制作当時なのだろうか、不況に喘ぐヘルシンキが舞台になっている。
かつての名門レストランで給仕長を務めるイロナと市電の運転手ラウリの夫婦は、決して豊かではないが慎ましく暮らしていた。
ただラウリは見えっ張りな男なのだろう、ローンで効果な家具や家電を買い揃えて、イロナに一抹の不安を感じさせている。
ある日、ラウリは突如会社からリストラを言い渡される。
しかもカードによるくじ引きでクビが決まるという何ともお粗末な方法で。
そしてイロナもまた突如職を失ってしまう。
彼女が勤めるレストランが、大手チェーン店に買収されたからだ。
レストランで働いていた従業員は、誰一人として新しいチェーン店には必要とされなかった。
とにかく不況のせいもあるのだろうが、全編通して労働者に対する社会の冷たさを感じさせる作品だ。
尤もこれはどこにいても同じ話なのかもしれない。
一度歯車が狂うと、人間はズブズブと沼にはまりこんでしまう。
そしてこれは誰にでも起こり得る話でもあるのだ。
再起を目指す二人だが、ラウリはプライドだけはやたらと高いので失業保険も受け取ろうとはしない。
イロナも給仕長まで上り詰めたプライドがあるのだろうが、いつだって人生で障害になるのは不必要な意地とプライドだ。
ラウリはようやく観光バスの運転手の職を得るが、健康診査に引っ掛かってしまい、新しい職だけでなく運転免許も失ってしまう。
イロナも非正規の職安に安くない金を支払ってみすぼらしいレストランの仕事を紹介されるが、オーナーがどうしようもないクズ男で給料も支払われない。
給料を支払うようオーナーのもとに乗り込んだラウリは逆に返り討ちに合ってしまう。
そして彼がアパートに戻ると、家具や家電が運び出されるところだった。
イロナはかつてレストランでクローク係を務めていた男に、新しく店を始めようと提案されるが、銀行はまったく融資をしてくれない。
ラウリは車を売った金をギャンブルに注ぎ込み資金を集めようとするが、失敗して文無しになってしまう。
どこまで行っても底の見えない滑り続きの人生。
底までたどり着いたら後は上がるだけなのだが、どこが底だか分からないのが人生の難しさだ。
とにかくこの物語の中でイロナとラウリは堕ち続ける。
しかし敗者のまま終わる物語など誰も観たくはないだろう。
どれだけ絶望を味わっても、諦めなければきっと希望の光は差してくる。
イロナは経験もないのに美容師の仕事にまで申し込みをしようとする。
そこでかつてのレストランのオーナー、スヨホルムと偶然出くわす。
スヨホルムは彼女に資金を提供して、新しい店を始めるように促す。
ラウリと共にかつての仲間を集め、ついに彼女は新しい店をオープンさせる。
しかし初日は誰も客が来ない。
二日目、一人の客が店先のメニューに目を止める。
そして次から次へと客が雪崩れ込んでくる。
ようやく手に入れた成功だが、これもまた浮き雲のようにふとしたはずみで消えてしまうものかもしれない。
それでもラストのイロナとラウリが店の外から空を見上げるショットに心が温かくなった。
白物がB●SCHでテレビがS●NY♥
ここでも悲愴が使われている。
最初に飛び込みてBARIを探すがそのBARIの番地が6番つまり、悲愴って事?
居抜き物件だと思うが、日本の映画の『か●め食堂』ってあった。リスペクト?
オフ・ビートで表情も豊かでなく、演技の良し悪しなんかどうでも良く、それでいて、人生の色々な事件が見えてくる。
良かったのは、映画後のクレジットに二曲目がなかった事。こんなあっさり終わるとは。
二人の愛がなんとなく感じる。負け組じゃないけどね。
追記 因みに一方的な解雇はフィンランドの様な民主的な国ではあり得ないし、片耳聞こえない位では運転手の免許を剥奪される事は無い。何故なら、運転手をやっていた今は亡き我が父親は片耳が全く聞こえ無かった。もっとも、途中で電車の検査係に転属したが。
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