劇場公開日 1970年3月21日

「毛色は違うがこれもまた戦争映画の傑作だ」レマゲン鉄橋 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0毛色は違うがこれもまた戦争映画の傑作だ

2019年6月10日
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鑑賞方法:DVD/BD

時は1945年3月、つまりドイツ降服の2ヶ月前
舞台はライン川に唯一残された橋、レマゲン鉄橋
文字通りドイツの最終防衛線のただひとつの入口となり、にわかに戦争の焦点となった
ドイツ側とアメリカ側の二人の少佐が、それぞれの将軍より特命を受けて、この橋の死守と奪取を巡って戦う
物語を説明すればこういうことになる

しかしそんな単純な戦争アクション映画ではない

ドイツ側は敗色濃厚で、兵も民間人も皆浮き足だっている
守備兵力は老人と少年兵と大した戦闘力のない工兵部隊が少しのみ
まともな兵力は他に抽出させられた後の脱け殻だけ
守備隊長は小学校の校長だった老人だ
これを病院から戻ったパリパリのエリート少佐がなんとか困難な任務を全うしようとする

米軍側も連戦に次ぐ連戦で配下の部隊は疲労困憊であるにもかかわらず、自己の手柄を優先してさらに困難な任務を貰ってくる少佐
その下の大尉も自分の手柄しか頭にない
さらにその下の古参の中尉は部下の兵と共にやさぐれるながらも、しぶしぶ戦う

大きな組織のヒエラルキーの中で、とても実現が困難な課題を与えられ、時間は恐ろしく短く、使えるリソースは全く足りない
約束されたはずの支援はいつまで経っても来ない
来ても全く足りないか、不良だ

そして当然、多くの仲間がみるみるすりつぶされ脱落していく
その様が両軍それぞれに、これでもかと描かれるのだ

それでも与えられた任務を最後の最後までやり抜かねばならないのだ
簡単に無理ですとも、降服しましょうとも言うことは許されないのだ

そんな状況で最善を尽くしていても任務を達成できなければ処罰されるのだ
あるいは部下の離反を受けるのだ

大きな組織の中で悪戦苦闘している人
とても達成困難なプロジェクトのリーダーを務めたことのある人
そんなチームで正にすりつぶされようとして疲労困憊しているあなた
あたら優秀な上司や同僚が次々に身体を壊すか、精神を病んで脱落していくのを横目に、つぎは自分かともがいているあなた
そんな人にこそ本作は刺さる映画ではないだろうか

史実を元にした物語の僅か2ヶ月後には、一方の組織が丸ごと崩壊し無くなってしまっていることを頭に入れて観ればより一層その虚しさを味わうことが出来るだろう

本作はそんなあなたにどうすれば良いかは、何も教えてはくれない
ただただ、こういう世界があるのだということを示すだけだ

あるとすれば、軽蔑されてでも生き残る知恵を巡らす軍曹と、最後には拾った金ピカのタバコケースを知人に貰ったとうそぶくくらいに図太くなった中尉が生き残り、互いに認め合うラストシーンだけだ

毛色は違うがこれもまた映画の傑作だろう

あき240