劇場公開日 1987年4月18日

「宇宙からの吸血植物を描く、異色のミュージカル」リトル・ショップ・オブ・ホラーズ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 宇宙からの吸血植物を描く、異色のミュージカル

2025年4月22日
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鑑賞方法:DVD/BD

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【イントロダクション】
B級映画の帝王、ロジャー・コーマンによる1960年の同名映画が、1982年にアラン・メンケンとハワード・アッシュマンによりオフ・ブロードウェイ・ミュージカル化され、本作はそのミュージカルの映画化&映画のリメイク版。映画からミュージカル、ミュージカルから映画にという変わった経緯を持つ。

貧民街の花屋で働く冴えない青年が、宇宙からやって来た吸血植物の鉢を手にし、成功していく過程を描く。
出演にコメディアン出身のリック・モラニス。舞台女優、歌手のエレン・グリーン。
監督は、『セサミストリート』や『スター・ウォーズ』シリーズのヨーダの声での声優経験も持つフランク・オズ。
脚本に、『美女と野獣』(1991)、『アラジン』(1992)等の作詞家で、舞台版も手掛けたハワード・アッシュマン。

【ストーリー】
1960年代。貧民街《スキッド・ロウ》の小さな花屋。店主のムシュニク(ヴィンセント・ガーディニア)は、繁盛しない店に嫌気が差していた。孤児で引き取った従業員のシーモア(リック・モラニス)は要領が悪く、もう1人の従業員オードリー(エレン・グリーン)は恋人からのDVに悩んでいる。

ムシュニクは、とうとう店を畳むかと口にする。慌てたシーモアとオードリーは、皆既日食の日にシーモアが花市で手に入れた不思議な植物を見せる。シーモアは、密かに想いを寄せるオードリーの名を取って、植物に“オードリーⅡ”と名付けた。

オードリーⅡを店先のウィンドウに置くと、たちまち客が押し寄せ、店が繁盛するようになる。ムシュニクは喜びはしゃぐが、オードリーⅡは閉店後に枯れかかってしまう。シーモアは、あらゆる手を尽くしてオードリーⅡを甦らせようとするが、どれも上手くいかない。しかし、シーモアが不注意から指を負傷し出血すると、オードリーⅡはそれを欲しがった。
シーモアが恐る恐る血を与えてみると、オードリーⅡは活気を取り戻した。オードリーⅡは、読みも珍しい生き血を啜る吸血植物だったのだ。

やがて、店は繁盛し、オードリーⅡを育てた事でシーモアは有名人になっていく。しかし、想いを寄せるオードリーは、恋人のオリン(スティーヴ・マーティン)からのDVに悩んでおり、オードリーⅡは更なる血を欲するばかりである。

ある夜、遂に人語を話せるまでに成長したオードリーⅡは、シーモアにオリンを殺害するよう焚き付け、更なる血を得ようとする。

【感想】
地球侵略が目的の吸血植物との出会いから対決までを描くという異色のミュージカル。

アニマトロニクスを駆使して表現されるオードリーⅡが素晴らしい。手作り感満載ながら、動きの滑らかさは抜群。鉢植えに収まっていた時は可愛らしく、肥大化して店内の天井に届くほどの大きさに至ってからは太々しく、それぞれ違った魅力を放っていた。
人語を話し始めてからの我儘で禍々しい本性を表し始めたキャラクター性も面白い。声の出演によるリーヴァイ・スタッブスの演技と歌唱もノリが良く楽しい。

手作り感と言えば、時代を感じさせるセットの美術も愛着が湧く。街の向こうに見える電車は、実際に走らせているというから凄い。その更に奥に広がる空は、どう観てもボードに描かれた絵なのだが、その質感は全てをCGで表現出来てしまう現代にはない温かみすら感じさせる。

エレン・グリーンの歌唱力は、流石歌手といったところ。ただし、そういう演技指導なのだろうが、普段の会話のトーンがワザとらしいのはマイナス。

ロネット(ミシェル・ウィークス)、クリスタル(ティチナ・アーノルド)、シフォン(ティーシャ・キャンベル)の3人組コーラス隊によるメインテーマが印象的で耳に残る。また、作中度々登場してはストーリーを盛り上げてくれていた。

オーディオコメンタリーによると、ラストの展開はバッドエンドになる予定だったそうだが、テスト試写の反応が芳しくなく、急遽再撮影をしてハッピーエンドに作り直したそう。
だからこそ、オリンや(事故とはいえ)ムシュニクをオードリーⅡの犠牲にしたシーモアが、オードリーと幸せな生活を手に入れる事に違和感を抱く。しかし、庭の花壇の中に再び小さくなったオードリーⅡが紛れ込み、不適な笑みを浮かべているのが完全なるハッピーエンドとは言えない塩梅を演出している。

【総評】
ミュージカルにしては珍しいSFやホラーを扱っているので、ミュージカルとしても異彩を放っている。また、手作り感満載の美術やセットの魅力がクセになる。基になった映画やミュージカルと共に、カルト的な人気を獲得した事も頷ける。

緋里阿 純
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