劇場公開日 1982年12月18日

「俺の戦争は終わっちゃいない!」ランボー kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0俺の戦争は終わっちゃいない!

2020年7月5日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

Blu-rayで観賞。
最新作観賞に備えて、復習。

シルヴェスター・スタローンは、スタジオシステム崩壊後のハリウッドにおいて、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグと並ぶ功労者だと思う。
『ジョーズ』『スター・ウォーズ』と前後してヒットした『ロッキー』は、アメリカン・ニューシネマの台頭によって低迷期にあったハリウッドにサクセスストーリーのエンターテイメントを取り戻したのだから。

だがこの『ランボー』は、1982年の作品でありながらアメリカン・ニューシネマに近いところがある。
主人公は決して正義の人ではなく、反体制の暴走が抑えられず破壊行動を増長させていく。
精神的後遺症を抱えたベトナム帰還兵を戦争被害者として捉えれば、ベトナム戦争批判のテーマ性という面でもニューシネマに通じるものがある。
原作小説のようにランボーが殺される最後だったなら、よりニューシネマ的な破滅の美学となっただろう。

とはいえ、町の保安官はランボーを帰還兵と知って排除しようとしたわけではなかったし、
訪ねた戦友の母親が少し迷惑そうなそぶりを見せはするが、町の住人がランボーを迫害するような場面もない。
ベトナム帰還兵が差別を受ける状況は、ランボーが投降する直前にトラウトマン大佐に悲惨な体験を語る長い台詞によって、初めて訴えかけられるだけ。
既に「ディア・ハンター」「地獄の黙示録」で戦場が人を狂気にさせることは描かれていたが、帰国した兵士の境遇にスポットを当てたことは特筆すべきで、しかもスタローンが色っぽいだけに、一部のベトナム帰還兵たちからは歓迎された。
社会への問題提起としては、後の「7月4日に生まれて」に全部お任せして、純粋に人間兵器と化して大暴れする元グリーンベレーのランボーというキャラクターとそのアクションを楽しめればヨシの映画だ。

見所はなんと言っても、ランボーの戦いぶり。
森の自然環境を利用して、たった一人で警官や州兵たちを撹乱する。罠を仕掛けて敵を倒すのは、後続のシリーズでも定番となった。
そして、スタローンの肉体美。
頬がこけた表情は精悍で野性味に溢れている。
同年に公開された『ロッキー3』で、ヘビー級タイトルマッチに「まるでミドル級だ」と言われるほど身体を絞ってリングに上がる役作りの成果だろう。

この映画のアクションでは、絶壁から林へダイブするシーンがあまりにも有名だが、ランボーがバイクを奪って逃走するパトカーとのチェイスが凄い。
タンクトップ姿で道なき道を疾走するスタローンはプロテクターを身に付けていない。
『大脱走』のマックイーンも真っ青ではないか❗

保安官を演じたブライアン・デネヒーの悪役ぶりが、また良い。
原作小説にあった彼(保安官ではなく警察署長だった)の背景は、映画では全く描かれておらず、ただ閉鎖的な田舎町の平穏を維持してきた自信家の保安官だ。
見るからに「俺に逆らうな」と言わんばかりの圧力を放つが、決して不正な人間ではなさそうな雰囲気もある。
保安官が州兵の将校に命令できるのには驚いた。

主人公を死なせなかったのは、後のシリーズ化を目論んでいたからかどうかは知らないが、スタローンはベトナム戦争の悲劇を本気で訴えたかったようだ。

kazz