劇場公開日 1984年9月8日

「宇宙開発草創期の神々の物語」ライトスタッフ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0宇宙開発草創期の神々の物語

2019年2月24日
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鑑賞方法:DVD/BD

宇宙開発に興味を持った人なら本作に登場する7人の宇宙飛行士の名前は神話の神々の名前に等しい
その神々が如何に宇宙開発の天土を拓いたのか
一言で言えばこうなろう

しかし、それだけであるなら3時間に及ぶ上映時間は必要なかったはずだ

本作は宇宙飛行士達だけを描くのではない
名も無きテストパイロットたちの物語も描く
そのために長い上映時間が必要だったのだ

モハベ砂漠の僻地の基地で働く名も無きテストパイロット達
彼らは優れた技量、身体的素質、そしてなによりも大事なものを持っていた
それはパイロットが毎週事故死して、気が付けば四分の一は殉職しているような危険な仕事
それであっても限界に挑戦し続けるタフな精神
即ちそれが題名のライトスタッフだ
それを彼らは持っていたのだ

宇宙飛行士は危険な宇宙飛行に立ち向かえるタフな精神を受け継いでいるのだ

冒頭で描かれるのはある天才テストパイロットが世界初の音速突破を達成するエピソードである
そして終盤に挿入されるのは、その彼が当時の航空機の最高到達高度記録を更新するものの機体が制御不能となりケガを負いながらも無事生還するエピソードだ

その二つのシーンが宇宙飛行士達の物語を挟むことで本作のテーマを象徴する構成なのだ

ロケットのように垂直上昇する当時の最新鋭のジェット機が最高高度到達の瞬間のシーンは印象的だ
宇宙空間の星の海が後少しのところまで来ていたのを彼の目は見ていたのだ
しかし、そこでエンジンは力を失い機体は失速してきりもみ落下してしまうのだ

彼は最高のテストパイロットと自他共に認める技量、素質、タフな精神を持っていたのに、大卒ではないということで宇宙飛行士の選抜から漏れてしまっていたのだ
その悔しさが見事に表現されたシーンであった

ベストオブベストの男が宇宙飛行士になれ
パイロットのピラミッドの頂点に立つ
しかし頂点に立つべき本当の男はそのテストパイロット、イェーガーだったのだ

彼の同僚であった宇宙飛行士の一番若手がインタビューで最高のパイロットは?と聞かれる
彼の名をいいかけるが言っても仕方のないこと
それは自分だとジョークでごまかすのだ

NASAの宇宙センターがヒューストンに完成し、その竣工パーティーが盛大に行われる
その余興として女性が沢山の羽を付けてステージで優雅にダンスを舞う
あれはギリシャ神話のイカルスだ
太陽に近づき過ぎて蝋で羽を固めた翼が、熱で溶けてしまい墜落する神話

それはイェーガーの墜落を監督が予告するものであった
その墜落は文字通りの意味のことでもあり、彼には宇宙に手が届かなかったことでもある

本作は宇宙開発の草創期の神々の物語である
そして本作にそのまま繋がる続編のような映画が
2018年公開の「ファーストマン」だ
舞台は砂漠の中の本作と同じエドワード空軍基地から始まる
こちらは神々ではない、人間が月を目指しても耐えうることができるのかを描く
正に本作と対になる映画だ
合わせて観ておくべきだ

あき240