夜よ、さようなら

劇場公開日:

解説

19歳で娼婦の世界に入った少女が様々な体験を通してその世界と訣別するまでを描く。女流作家ジャンヌ・コルドリエの自らの体験を基にした小説(読売新聞社刊)の映画化。製作はべンジャマン・シモン、監督はドキャメンタリー出身のダニエル・デュバル、脚色はジャンヌ・コルドリエ、クリストファー・フランクとダニエル・デュバル、撮影はミシェル・セネ、音楽はウラジミール・コスマ、編集はジャン・べルナール・ボニ、衣裳はコリンヌ・ジョリーが各々担当。出演はミュウ・ミュウ、マリア・シュナイダー、ダニエル・デュバル、ニエル・アレストラップ、ブリジット・アリエル、ジャン・バンギギ、マルティーヌ・フェリエール、マリー・ピレ、レジ・ポルトなど。

1979年製作/フランス
原題または英題:La De robade
配給:コロムビア
劇場公開日:1980年8月9日

ストーリー

マリー(ミュウ・ミュウ)は19歳のパリジェンヌ。ボーイフレンドと時間を過ごす平凡な女の子だ。彼女の父親はろくに職にもつかず昼間からカフェでカードをやっている。そのカフェにやって来たマリーは、そこで父親の知り合いらしき男の熱い視線を感じた。エレガントでハンサムなその男ジェラール(ダニエル・デュバル)とマリーの、それが運命ともいえる出会いだった。ジェラールは、派手な指輪や服などが示すように、娼婦のヒモで生活している男だった。しかし、一目で彼に魅せられてしまったマリーは、何の抵抗もなくジェラールの言うままに娼婦として淫売屋で働くことになった。そして、そのことは、父親も承知の上だった。ソフィという源氏名を与えられたマリーは、そこでマルー(マリア・シュナイダー)という、どこかなげやりでいながら魅力的な女の子と友だちになった。客の中には、様々なタイプの男たちがいた。そして、それらの男たちの相手をしながら、マリーは知らず知らずの間に一人前の娼婦になっていった。一方、ジェラールは次第に本性を見せはじめ、マリーをこきつかった。ジェラールの手をのがれてマルーとの生活をはじめたマリーは、しかし、ジェラールの差し向けた狂暴な男に乱暴され、ジェラールから離れられないことを実感した。次第に深く娼婦という地獄のような世界に落ちてゆくマリーは、時には、純朴そうな青年(レジ・ポルト)を知るようなこともあったが、実は彼も残酷な男でしかないことを知りさらに絶望するのだった。そして、心までは売ってはならないと自分に誓ったマリーは、遂に脆くジェラールをつき放し、足を洗う決意をした。そして、売春登録を抹消するために出頭したマリーは、係官にきつばり言つた。私にはヒモなどいなかった--と。これからマリーは新しい人生を迎えようとしていた。

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映画レビュー

3.0裏社会からの脱出を図る女性の苦難のノンフィクション映画の衝撃度と女性映画としてのフランス映画

2022年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

パリの娼婦街を舞台に、ひとりの娼婦が自由な生活を求めてヒモの元から脱出する話を力まず淡々と描いたフランス映画の衝撃作。原作は、女流作家ジャンヌ・コルドリエが経験した5年間の娼婦体験をもとにしたノンフィクション小説で、1976年に発表したもの。そのため、女性の立場から見た娼婦の世界が、そのものの姿で現れた価値がある。 話が娼婦街の出来事だけに、ショッキングなシーンが多い。例えば女性から罵られて興奮する男や一見紳士風ながら女性の手を何度も嚙むサディスティックな男など、客の様々な性的嗜好が描かれている。しかし、それらは強調された演出のものでは無い。ヒモ役で出演しながら監督も兼ねたダニエル・デュバルには、特に技巧的な演出は感じられないが、この人間の裏社会を興味本位で面白くさせようとはしていない。終始落ち着いたタッチで一つひとつのシークエンスを組み立てながら、主人公マリーの心の変化を見詰めている。これがデュバル監督の狙いであろう。率直な語り口による裏社会から自立する女性の苦しみが、今日的な女性映画のテーマとして浮かび上がる。 そして、同時にヒモ男の世界も客観的に丁寧過ぎるくらいに描かれている。マリーと仕事仲間マルーが独立して仕事をすれば、凶暴な男を雇い部屋で暴れさせる。この残虐さと、ふたりが強盗に遭った時の徹底的な復讐に見るヒモ男の自分勝手な欲望の我儘さ。 しかし、この映画の一番の見所は、マリーを演じたミウ・ミウという女優の体当たりの演技であった。今フランス映画界で最も注目される女優と聞いたが納得の熱演であり、無意味に嘆くことの無いマリーの精神的な強さを秘めた内面を見事に表現している。唯一、好青年に見えた男とのささやかな出会いが、突然の裏切りにより絶望と化すマリーの怒りと嘆きには、痛々しさと同情を感じてしまった。 ヒモ男に恋した女性が人生をやり直そうとする、再起に至る実話の興味深さ。力まず嘆かず、あくまで自然に人間の姿を捉えた率直な語り口に、主演ミウ・ミウの好演。当事者でしか知り得ない裏社会の実状の告白も兼ねたノンフィクション小説の衝撃度だけではないフランス映画である。   1980年 8月12日  ニュー東宝シネマ1

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Gustav