「実は今年(2025)は100周年」夕陽のガンマン TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
実は今年(2025)は100周年
前作『荒野の用心棒』(1964)の成功を受けて製作されたセルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタン第二弾。
前回、まともなプロデューサーに巡り会えずろくでもない出資者と関わったせいで、盗作の汚名を背負う羽目になったレオーネ。
本作で組んだアルベルト・グリマルディは、のちにフェリーニ作品や多くの大作を手掛けることになる「まともな」プロデューサー。
もっとも『荒野の用心棒』の時もレオーネは彼に脚本を送っていたのに、レオーネと仲が悪かった事務所のスタッフが見せずに隠してしまったんだとか。
配給もアメリカの大手ユナイト映画(UA)が担当することが製作前に決まり、60万ドルの製作資金を手に入れスケールアップした作品に仕上げている。
『用心棒』(1961)の筋書に倣い主人公が単独で二つの勢力に立ち向かう構図だった前作と異なり、あらたに登場した凄腕ガンマンと同じ標的を巡って繰り広げる丁々発止の見せ場が本作の特徴。
以降、連携と離反を繰り返す男二人の複雑な関係はレオーネの遺作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)に至るまで全作に共通するテーマとなるが、一人っ子で兄弟ゲンカの経験もなく育った彼が厳格な母親に近所の悪ガキとの接触を禁じられていた子供時代の原体験が影響しているともいわれる。
ほかにもエンニオ・モリコーネの音楽をバックに盛り上げていく劇的な決闘シーンや、効果的なフラッシュバックの挿入もレオーネ作品の定番に。ロングショットと極端なクローズアップを対比した独特の演出、いわゆるレオーネ・スタイルも本作で確立している。
「ハリウッド西部劇のファン」と単純化して語られることの多いレオーネだが、通常“bounty hunter”と称される賞金稼ぎが本作では“bounty killer”に統一されており、そんなところにも彼ならではのアイロニーが読み取れる気も。
犯罪グループの凶悪なリーダー、エル・インディオが劇中で吸っているのは煙草ではなく、マリファナ。西部劇というジャンルに留まらず、メジャーな作品に麻薬を持ち込んだことも画期的。
主演のクリント・イーストウッドと前作でも敵役を演じたジャン・マリア・ヴォロンテに加え、のちのヴェルナー・ヘルツォーク作品の常連俳優クラウス・キンスキーがワイルド役を怪演。
前作のコメディリリーフ的存在だったヨゼフ・エッガーは、汽車嫌いの情報屋を今回もコミカルに演じている。
翌1966年に他界し、本作が遺作に。
作品冒頭で殺されるお尋ね者のガイ・キャラウェイを演じている俳優は『続・荒野の用心棒』(1966)のリンゴ役など、マカロニ・ウエスタンの多くに顔を出してるのに、ノンクレジットだったり別名義で表記されるせいか日本の媒体でも間違った名前で紹介されることが多いが、本名はホセ・テロン・ペニャランダ。
本業はスタントだったそうだけど、確かにあのご面相じゃ顔出しで使ってみたくなるよね。
2019年没。
スタイリッシュな衣裳とエル・パソの街並みをデザインしたカルロ・シーミがエル・パソ銀行の頭取役でカメオ出演している。
前作で主役のキャスティングに手間取ったのに続き、本作のモーティマー大佐役も例によってヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソンらに断られた挙げ句、ほぼ本決まりだったリー・マーヴィンは欠員の出た『キャット・バルー』(1965)に掻っさらわれる始末。
その後の展開は当事者の証言に微妙な異同はあるが、単なる消去法的選択ではなく、マーヴィンに逃げられた時点で『リバティ・バランスを射った男』(1962)で彼と共演していたリー・ヴァン・クリーフをレオーネが明確にロックオンしていた節が窺える。
ヴァン・クリーフは名作西部劇『真昼の決闘』(1952)で印象的な銀幕デビューを果たした後も、セリフがなかったり物語の本筋に絡むことなく途中で出番のなくなるような端役ばかりで、本作の出演が決まる前には交通事故で膝を痛めて乗馬が出来ない状況(つまり西部劇には出られない)。
俳優として引退同然の身だったが、実年齢40歳で初老のガンマンを貫禄たっぷりに演じたことが評価され、一気にマカロニ・ウエスタンのトップスターに。
TV俳優で燻っていたイーストウッドに続き、万年端役の彼を抜擢したレオーネの慧眼はやはり凄いと思う。
前作では機知に富んだ飄々たる雰囲気の流れ者を演じたイーストウッドが今回演じるモンコは、思慮深く周到なモーティマー大佐との対比から短慮でやや粗暴な設定。
それを反映して、前作で哀愁漂う『さすらいの口笛』を作曲したモリコーネも、主題曲を硬派な感じに仕上げている。
劇中の音とBGMがシンクロしていくモリコーネのスタイルも本作以降、定番に。
オルゴールの音色を引用した『ガンマンの祈り』は今でもたまにCMに使われたりしている。
子供の頃からマカロニ・ウエスタンの大ファンだが、特にリー・ヴァン・クリーフは中学から大学卒業して地元を離れるまで彼の特大パネルを部屋に飾っていたほど大好きな俳優(その後、パネルは実家を離れてる間に物置と化した自室でお陀仏に。トホホ)。
学生時代、今はなき地元の映画館、大宮コマ・ゴールドで本作を上映してることを知りながら、諸般の事情で観に行けなかったことがずっと心残りだったので、昨年「ドル三部作4Kレストア特集」で拝見出来て感謝感激。3回観ました。
劇場の大スクリーンで観たヴァン・クリーフのクローズアップは痺れるほどキマッていた。
そして、本作のレビューで多くの方も彼の事を「カッコいい」と評価してくれてることが、そのときの気持ちと同じくらい嬉しい。
NHK-BSにて視聴。
2025年も間もなく暮れようとしているが、実は今年はリー・ヴァン・クリーフ生誕100周年の節目。
そんな思惑で放送したのではないと思うが、2週続けて彼の出演作が観られることにも感謝。
