「やられたらやり返す図式のやるせなさ」スティーブン・キング 痩せゆく男 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
やられたらやり返す図式のやるせなさ
最近『英誌が選ぶスティーヴン・キングの映画化作品ベスト20』が発表された。
実は僕が初めて本屋で買った小説が彼の著作『シャイニング』
でして、一時期は憑かれたように読み漁ったもんです。
近頃またキング原作映画の企画が続々
進行中で、ファンとしては嬉しい限り。
という訳で(どういう訳だ)、
これから折を見てキング原作映画のレビューを
やってみようかなあんて思う。ま、チマチマと。
最初は『痩せゆく男』!
先述のベスト20にも入ってない上、キング氏が
別名義で書いた作品というビミョーなチョイス(爆)。
しかし原作に対する再現度は高く、キング自身が
好きなB級ホラー的雰囲気もたっぷり。
レンタルでサクッと観るならちょうど良い
面白さの映画かと(誉めてんだかケナしてんだか)。
物語の主人公は体重135キロ・大食漢の弁護士ビリー。
ある日彼は不注意から、ジプシーの老婆を轢き殺してしまう。
しかしビリーは腕も評判も上々の弁護士。旧知の判事や
刑事の力を借り、難なく無罪放免となってしまうのだった。
だが喜びも束の間。裁判の直後、老婆の夫と
おぼしき男がビリーに近付き、彼の頬を撫でて呟く。
「痩せてゆく」
その日を境に、恐ろしい速度で体重が落ちてゆく主人公。
いくら食べても痩せてゆく。
何をやっても痩せてゆく。
骨と皮だけになっても止まらない。
痩せて、痩せて、痩せてゆく。
やがて、事故の揉み消しに関わった者
全員が奇怪な病を患っている事が判明。
これがジプシーの呪いであると気付いた
ビリーは、呪いを解くべく奔走するが……。
巨漢の主人公がガリガリに痩せてゆく等の特殊メイクも
面白いが、呪いをかけたジプシーを脅迫する為、主人公が
とんでもなく現実的な“呪い”で対抗する後半の展開が凄い。
復讐に対する復讐、止まらない恨みの連鎖。
これは正に小さな戦争だ。
己の罪が招いた結果とはいえ、
主人公に同情を禁じ得ないラストも良い。
あと、原題『Thinner(痩せゆく者)』と
Sinner(罪人)は発音が似てる気がする……
まぁこれは深読みし過ぎかしらん。
不満点としては、
原作の終盤で殺された或る人物が映画では死なず、
“恨みの連鎖”の印象が原作よりやや薄れた点か。
あ、それから先述通りB級テイストな映画なので、
見事な映像とか編集とかはあまり期待しないでね(笑)。
以上! 皮肉がピリッと利いた恐怖映画です。
<了> ※2012.04初投稿