劇場公開日 2023年11月23日

「言わずと知れた、カンフー映画の金字塔」燃えよドラゴン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5言わずと知れた、カンフー映画の金字塔

2025年5月25日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

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興奮

【イントロダクション】
ブルース・リー主演のカンフー映画の金字塔。少林寺拳法の達人リーが、悪の道に染まり同門を破門された人物が所有する島の武術大会に潜入し、島に隠された秘密を暴いていく。
監督はロバート・クローズ、脚本にマイケル・オーリン。伝説的なテーマ曲を生み出した音楽にはラロ・シフリン。

【ストーリー】
少林寺で武術の達人として弟子達を教えるリー(ブルース・リー)は、国際情報局のブレイスウェイトから、かつてリーと同門で武術を学びながらも悪の道に堕ちて破門されたハン(シー・キエン)が所有する島で、3年に1度開催される武闘大会へ出場するよう求められる。
大会への参加は表向きの理由で、ハンが島で秘密裏に行っている犯罪行為の内情を調査してほしいというのが目的だった。

リーは、父から妹のスー・リンの自殺に、ハンの手下であるオハラが関係していると聞かされ、復讐を果たすべく大会への参加を決意する。

島へ向かう船には、借金の返済の為に参加するローパー(ジョン・サクソン)、警官への暴力行為によって逃亡を余儀なくされたウィリアムズ(ジム・ケリー)も居た。

島に到着すると、金髪の美女(アーナ・カプリ)と屈強な大男のボロ達が迎えた。大会開催前夜の宴は盛大なものだったが、姿を現したハンに、リーやローパーらは不信感を抱くのだった。

大会当日、ウィリアムズとローパーが順調に勝ち進んでいく。その夜、リーは島に潜入していたメイ・リンの情報を頼りに、島の内部へ潜入調査を開始する。

【感想】
カンフー映画の金字塔として、後世に多大なる影響を与えた本作。

中でも特筆すべきは、リーが相手の命を摘み取った瞬間に見せる、「一線を越えた」者としての切なさが滲む苦悶の表情だ。妹の仇であるオハラを殺めた瞬間さえ、目を見開いて身体を震わせ、哀愁が漂う表情を浮かべていたのが印象的。特徴的な「アタッ!」「ホァタァ!」という掛け声も耳に残る強烈な個性だ。
また、ハリウッドアクションに顕著な屈強なマッチョとは違う、ブルース・リーの細身に無駄なく付いた筋肉という細マッチョスタイルも個性的。作中でリー以外が皆典型的なマッチョだからこそ、彼の肉体は極限まで無駄を削ぎ落とし、研ぎ澄まされた肉体だという説得力がある。
孤島へ向かう船の中で、自らの力を誇示して周囲を威圧して愉悦に浸る者からの力比べの申し出を、受けたと見せかけて先にボートに乗せ、沖合に放つという躱し方はユーモアがあって面白かった。先の展開を見れば、リーが実力的にも明らかに格上なのは一目瞭然で、「無闇な闘争はしない」というリーの高い精神性を端的に表している。

反面、ストーリーテリングは単調かつ凡庸であり残念だった。リーをはじめとした大会参加者の過去を次々と提示していくスタイルは、特にアフロヘアが特徴的なウィリアムズに至っては描写する必要性すら感じられなかった。リーが武闘大会とスパイ活動を並行して行なっていく様子も、「自分以外の試合の裏で」といった同時進行性でもあればまた違ったのだが、昼は大会、夜は潜入というのは、どうにもテンポ感が
悪く感じられた。

「考えるな、感じるんだ」
有名なこの台詞が、リーが序盤で門下生に教える教訓なのは意外だった。その理屈含めて、色々と雰囲気だなと感じた。出来れば、クライマックスでのリーとハンの一騎打ちで、この台詞の意味が活かされる展開でもあれば良かったのだが。

アクションシーンについては、この時代でこそ流れを意識した格闘アクションは斬新だったのだろうが、今見ると明らかに「敵が殴られる為に近付いている」「倒される程の致命傷には見えない打撃でノックアウトされる」といった、結論ありきのアクション構成である。とはいえ、特にクライマックスでのリーとローパーの多人数相手のアクションや、ハンとの鏡張りの部屋での一騎打ちは外連味や緊張感に満ちており素晴らしかった。

ハンの島で修行する門下生達の修行風景の様子が、腰の入っていない如何にも見せかけのものだったのは、時代的な緩さとして笑えた。

作品を代表するテーマミュージックの素晴らしさは今更語るまでもないかもしれないが、やはりオープニングやエンディングといったここ1番での掛かりにはテンションが上がる。

個人的に上手いと感じたのが、格闘メインの話を成立させる上で、どのようにして“銃”を排除するかだ。ハンはかつて銃で暗殺されかけた過去を持ち、それ故に護衛や警備兵であっても島内でも銃の携帯は一切禁止というのは、格闘戦を存分に描く意味でも非常に効果的だったように思う。

余談だが、本作の日本公開時点でブルース・リーは既に逝去しており、ブルース・リーは32歳、息子ブランドン・リーも撮影中の事故により28歳の若さで逝去と、親子共に早逝なのが惜しい。偉大な才能とは、いつの時代も早くに失われてしまうものなのかもしれない。

【ストーリーの改善案】
そもそも、一つ一つの要素がバラバラであり、個々のキャラクター同士が密接に関わり合わないのが問題なのだと思う。

例えば、リーが島に潜入してからの展開を変えるだけでも、作品としての見栄えは大分変わるではないかと思う。

リーは宴の後のサービスの際、リン・メイから島の内情について聞かされる。
翌日の大会では、先ずリーは普通に武闘大会に参加して、ウィリアムズと当たる。ウィリアムズはリーの達人としての実力の前に敗れ、彼を認めて親しくなる。ウィリアムズはローパーとは旧知の仲なので、ローパーとの関係性も無理なく発展させられる。そこで、リーはウィリアムズとローパーに自分が島にやって来た本当の目的を告げるのだ。

翌日、リーは自分の試合が無いことを知り、ウィリアムズとローパー、メイ・リンがそれぞれリーの不在をハンに不審がらせない為に、ローパーは試合を盛り上げ、メイ・リンはハンの注意を試合に向けさせるよう振る舞う。ハンがリーの不在を不審がる素振りを見せれば、すかさずウィリアムズが「彼は体調不良らしい」と告げ、前日にあった試合結果の賭けを大声で提案して、会場を沸かせたりする。その隙に、リーは島の内部に潜入し、隠された秘密を探っていく。
その日の大会終了後、ウィリアムズの行動を不審に思ったハンは、彼を自室に呼び付け、口を割ろうとせず抵抗するウィリアムズを叩きのめす。

翌日、リーとローパーはウィリアムズの姿が見えない事に不信感を抱きつつ、リーはオハラとの因縁の試合を制す。ウィリアムズの身を案じ、夜間に内部へ潜入したリーは、縛り付けられたウィリアムズを発見し、ハンの手下達と壮絶な死闘を繰り広げつつ、ハンがメイ・リンを人質に取って現れ、リーは投降を余儀なくされる。

大会最終日、ローパーはリーとの対戦をハンに命じられ、リーの様子から事情を察知する。ローパーの機転により、大会会場は大混乱。捉えられたリン・メイとウィリアムズは裏切った侍女(金髪の美女でも良い)の助けによって牢屋から解放。他の囚人達と共にリー達を助太刀する。

といった具合だ。
これらは、脚本の展開を少々変更するだけで可能であり、新たにセットを組む必要もなく、現実的な変更とドラマ性のあるストーリー展開を見せられるはずだ。

【総評】
カンフー映画を世界的に大流行させた作品として、鑑賞する価値のある作品だった。ブルース・リーの肉体美、特徴的な音楽と、魅力的な部分も多かっただけに、特にストーリーにもっと高い完成度を求めたくなってしまう。
とはいえ、アクションシーンの構成や細部の緩さ、ストーリーテリングの凡庸さも、ある意味この時代ならではの愛嬌なのかもしれない。

緋里阿 純
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