劇場公開日 1957年10月23日

「1994年版より出来が良い」めぐり逢い(1957) 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.51994年版より出来が良い

2025年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 ウォーレン・ベイティが主演の1994年版と比較して鑑賞。そちらも好きだけど、結論から言うと今作の方が秀逸な出来映えだった。具体的には

・有名人であるニッキー(ケーリー・グラント)とテリー(デボラ・カー)が、客船内で関係性が噂になるリアリティと、そこから生まれる笑い。
・登場人物の心理描写
・テリーの婚約者が、テリーがニッキーに惹かれるという心情の変化を受け入れる成熟した大人の魅力(1994年版もそうだったかもしれないけど印象に残らない)。
・ニッキーの本業が画家なので、彼がテリーの絵を描く行為に深みが出る。

以上の点で、1994年版以上に良くできている映画だった。

 以下、秀逸だと感じたシーン。

 ニッキーの祖母の家を二人で訪れた帰り際、祖母がピアノを弾く。そこに汽笛の音が聞こえてきて彼女が演奏を止める。ここは、次はいつ会えるか分からないという別れの寂しさを上手く表現した点で、秀逸なシーンだった。また、祖母という近親者とテリーを引き合わせたことで、ニッキーとテリーの関係が単なる不倫に留まらない深みを与えている点が、今作を秀逸なドラマにしていた。

 客船内で踊る二人。そこに「オールド・ラング・サイン」を歌う歌声が聞こえてくる。笑顔だったテリーの表情が寂しげに変化し、その場を離れていく。しばし虚空を見つめるニッキーの背中に哀愁が漂う。ここも、二人で過ごした楽しい時間が終わりに近づく寂しさを、演技だけで表現していて素晴らしい。

 テリーが帰宅後、婚約者とニッキーが出ているテレビを観る。最初は笑っていた婚約者が、やがてテリーの真意に気づく。それでも彼女を責めず、むしろ受け入れて支えようとする。彼がテリーを単なる恋愛相手と見ているのではなく、本当に大切に想っているのが分かる。真実の愛を上手く表現していると同時に、成熟した大人の魅力を見せてくれるシーンだった。

 歩けなくなったテリーに対して、彼女の音楽の教え子達が彼女に歌を贈る。「明日の地に行くには目を閉じて念じるだけ...」という歌詞が、テリー自身の心情と重なり彼女が涙ぐむ。彼女の心情を思うと泣ける。

 ただ、ラストは少しご都合主義的な感じがして、若干冷めたので☆-0.5。ここは惜しい。とはいえ総合的には傑作と言える映画だと思う。今作はノーラ・エフロン監督が『めぐり逢えたら』でオマージュしている。今作を観ていると、彼女の今作に対する愛がひしひしと感じられる点がまた良かった。

 1994年版より今作の方が出来は良いけど、1994年版は①ウォーレン・ベイティのダンディな佇まいとスマイル②モリコーネの音楽③二人で過ごした島の景観の美しさ 以上3点が秀逸だ。どちらの作品にもそれぞれの良さがあり、映画というものの素晴らしさを改めて感じさせてくれた。

根岸 圭一