劇場公開日 1980年2月23日

「アレン監督の実生活が反映されたマンハッタン愛にみる、温もりのあるセンチメンタル」マンハッタン Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アレン監督の実生活が反映されたマンハッタン愛にみる、温もりのあるセンチメンタル

2022年5月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今アメリカ映画界において期待以上の良作を生み出す映画作家は、もしかすると、この柔弱な顔と華奢な身体をもったシガナイ中年男ウディ・アレンだけかも知れない。ベトナム戦争の後遺症から漸く立ち直りはしたものの、人種差別や男女平等の問題解決に模索する新たな社会構造を生みだそうとする混乱期、アメリカ映画はかつての歴史を反復するだけでは世界のリーダーシップを発揮することは出来ない。ところが、その中でアレン監督はニューヨークという現代社会の最先端に生きて、直面する社会変容に堂々と立ち向かっている。その生々しさ、臆面の無さは、彼独自のインテリ層向けの教養深さと、ユーモアとペーソスを巧みに交えた個人主義的人格によって、確かな映像作品を創作している。前作「インテリア」において、家庭崩壊のドラマをシリアスに描き切った実力を見ると、彼自身自己を良く知っている知識人であり、根底にあるコメディアンとしての批評眼が生活力の逞しさを内蔵しているのであろう。そして、今度はその批評眼から解放されて、マンハッタンに生活する人間を自由に描いた気軽さと身軽さが、現代人の哀愁を謳い上げている。強かというか、作家としての真面目さが報われているのではないだろうか。

と言って、この作品がすんなり日本人の観客を感動させるかは、首を傾げるのだ。個人的にはインテリに憧れるスノッブ気質で笑えるだけ楽しもうと心掛け、満足のいく答えが得られたが、よく考えるとこれは東京に住む日本人の身構える心苦しい反応ではないかとも思う。救いは、どんな状況に置かれて生活様式が違っても、愛に飢えて温もりを求めることが人間の自然な姿ではないかという、ウディ・アレンの中年人生の呟きである。それをアレン監督は、実生活の交友関係を思わせる“友人たち”を親しみを持って描いている。ダイアン・キートンとの台詞のやり取りなど、これがフィクションかと疑わせる程に生き生きとした感覚がある。麻薬、同性愛、離婚、男女の性など様々な現代社会の断面を的確に見詰めながら、アレン監督は自分の本音をゆとりを持って描いている。

才人ウディ・アレンが、変化する都市ニューヨークのマンハッタンで恋愛に生き甲斐を求める自分と”友人たち”を描いた写実的なスケッチ。このリアリティにガーシュインの音楽を生かしたセンチメンタルな愛のささやきとバラードが、微笑ましいくらい漂う佳作である。「インテリア」から自由に解放された気軽さに、アレン監督の演出力をみる。

  1980年 2月29日  みゆき座

Gustav