「素なのにおしゃれなせかい」真夏の夜のジャズ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
素なのにおしゃれなせかい
imdbでも8をつけていて、日本でもむかしからジャズの好きな人々や、山の手の文化人に賞賛されていた。
わたしは田舎の百姓だが、わかいころは厨二で、スノッブな文化人の影響下にあり、釣られて見たのだろう。
映画は1958年のNewport Jazz Festivalのようすをとらえている。バートスターンは映画人というより写真家で、マリリンモンローや多くのハリウッド有名人の写真で名高い。らしい。
ストーリーもナレーションもなく、恒例らしきジャズフェスティバルを、海辺の街、ロードアイランド州ニューポートの小景をはさみながら映している。
わたしはジャズに詳しくない。Louis Armstrongがわかるていど。だが映画の魅力は発色のいい(まさにVividな)撮影と1958年のひとびとの風俗にある。
ここに映っていて、フェスティバルを見て聴いている観客は、とうぜんながら撮影用に用意したエキストラではなく、市井の一般客にすぎない。
が、かれらの圧倒的なおしゃれさ。被服、帽子、サングラス、表情、色調、動作。なにげなくとらえているはずの小景が、絵になってしまうというすごみ。全シーンが特別に装った50'sの雑誌の切りぬきのよう。
アニタオデイが白いフリルの裾をした、すこしタイトめな、ノースリーブの黒ワンピを着て、白い羽の付いた帽子をかぶって、みょうに外れた調子で歌っている。白手袋、真っ赤な口紅、そばかす、表情豊かに歌うアニタオデイ。単焦点。
撮影をしている人。リズムをとっている人。アイスを食べている人。拍手する人。かれらの笑顔。鷹揚。
たとえ仕込んだとしても、ぜったいに、こんな素敵な絵にはならない。──と思わせる風物で、全編が彩られている。
なにより、じぶんの身なりになんとプライドをもった人々であることだろう。(!)
その古き良き時代に加え、こっち側にいるのが写真家であることがはっきりとわかる充溢した絵が次から次へと展開する。
「被写体をまるごと抱きしめるが、自らは引いて存在を消す」(ドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」に出てくる写真家の言葉)
意識させずにとらえられた素の世界。極上の環境ビデオ。ホームパーティで壁に映写しておくと、最高におしゃれです。