「人はなぜ、勝ちたいか。何のために走るのか。」炎のランナー xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)
人はなぜ、勝ちたいか。何のために走るのか。
公開当時、学生でしたが、これは凄い映画だと思ったのに、自分がいったい何に感動したのか、よくわからなかった。40年弱経たいま観ると、当時理解できなかった、この映画に込められた影の意味もわかる気がしました。
ラストシーン、そして流れるあの曲。相乗効果が生む圧倒的美しさは変わらず。素晴らしいの一言に尽きます。
NHK「いだてん」を観てたのもこんなところで役に立ちました。時代背景が重要。ファッションも興味深く、選手団のユニフォームなども楽しめる。昔はみなお洒落ですね。日の丸や日本選手団もちらと見つけました。
しかし時代はここから戦争へ向かって行く...エンドロールまで絶対に観ないと!そこまで込み、の作品だったのかと、今回よくわかりました。
二人の主人公の在り方、「陸上」という共通項を借りながら、宗教、差別、学歴、階級社会、実力主義、プロとアマの線引き、スポーツとお金、選考における裏事情、国家間のプライド、個人の信条と友愛など、考えさせられるテーマが小さなセリフとシーンに散りばめられています。
勝つ、ということの意味が、人によってこれほど変わってくるとは。学生だった私は、ユダヤ人のエイブラハムがただの勝ち組志向、エリート主義者だと、嫌な印象しかなかった。笑顔も少ないし。
でも今回は全く違うものが見えました。
ケンブリッジのお偉いさんに呼ばれ、努力を褒められるのかと思いきや、いや〜な釘の刺され方をします。The イギリスの上流階級。ユダヤ人が欧州で暗にどう思われていたか、同じくイタリア系、アラブ系も。勝ち組の彼もまた、誰よりも戦っていました。その辺の複雑な思い。セリフじゃなく、雰囲気で見せていく。
階級制度に安住しているおじ様たちが一番嫌がるのは、合理的な実力。お金払ってプロコーチをつけ、練習に励む彼に、水を指します。品格に欠ける、とか言っちゃって。やれやれ。そんなこと言うあなたたちこそ、品格があるとは、とても思えませんけど。そのくせ、勝たなきゃケンブリッジに泥塗る事になるぞ、って。ジャマおじは、どの時代、どこにでも、いるのですね。
宣教師を目指すライバルは、なにやっても、愛されキャラ。裏がない。清貧代表という感じです。神から授かった俊足。神への感謝と祝福のために走っています。だから無敵。
ユダヤ人であるエイブラハムが、なぜ勝ちにこだわったか。何に勝ちたかったのか。チャンピョンになっても、なぜ笑顔じゃないのか。彼の苦悩が見えてきました。
屈折しそうな彼の心を、恋人の理解が支えます。よかった。
このあと世界は大戦へとなだれ込んでいきます。
ラストの海辺を走るランナー達の姿。
そこには偏見や信条の違いなんてない。ただ命の躍動があるのみです。
学生の私にもそれが伝わったんでしょう。
殺し合いの代わりに、スポーツに命を賭けて戦う方が絶対にいい。オリンピックは人類の発明と言えるかもしれません。
今度の大会はコロナとの戦いにとって代わられました。やはりオリンピックができるというのは、平和の証だと思いました。
若井様、コメントありがとうございます。皮膚感覚の共感、若井様も競技者でいらっしゃったのですね?羨ましいです!それぞれの人生経験から、見えるものが様々で、本当に仰る通り、美点多い名作ですね。また次に観たら新たな感想が出そうです。
運動選手のアイデンティティ弛まぬ努力
體育會の誇りと矜持に
皮膚感覚として共感できるか否か?が要点と思う
出走種目の変更を迫る英国陸連 王と神の相剋
リトアニアからの移民ユダヤの100m決勝など
美点多い名作です。ヴァゲリスの名曲も五輪開会式でユーモアに喝采浴びることに