「ヒッチコック映画は展開範囲の狭い作品にこそ彼らしさが…」北北西に進路を取れ KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒッチコック映画は展開範囲の狭い作品にこそ彼らしさが…
この映画はヒッチコック作品の中でも人気の
ある作品のようだ(キネマ旬報第11位)。
泥酔運転でのケーリー・グラントの名演技や
複葉機での襲撃シーン、
また巨大モニュメントでの逃走劇などの
魅せるアイデアそのものは
感心するばかりである。
冒頭では主人公を巡る謎の展開から
作品世界へ惹き付けられるだが、
主人公拉致のカラクリそのもののは
前半早々判明し、
以降はサスペンス色が消失して
アクション的展開だけが続いていく。
だから、アクション過多の展開と、
敵と思われた女性との絡み合いの揚げ句に
恋愛成就に至るストーリーは、
まるで007映画を観ているようだ。
そもそもが相手側組織は
いつでも主人公を亡き者に出来るのに、
面倒にもわざわざ複葉機で暗殺を図る手間が
何故必要なのか、
国外に持ち出すフィルムが
何故美術品の中にあり、
何故その落札の場面を設定しなければ
ならないのか、等々
これらのシーンは単に使いたいが為だけに
あるように見え、
ストーリー上の必要性を感じない
御都合主義的な違和感がある。
多分にそんなシーンの多用が
この作品の全体の緊迫感を失わせている
原因なのではないだろうか。
ヒッチコック作品では
「レベッカ」「ダイヤルMを廻せ!」
「裏窓」「サイコ」等の
展開範囲の狭い作品の方が、彼らしい
濃密でサスペンス色に溢れた映画に
なっているように感じる。
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