「人間チャップリンの人生を讃え記録した伝記映画」放浪紳士 チャーリー Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
人間チャップリンの人生を讃え記録した伝記映画
奇しくもチャールズ・チャップリンが88年の生涯を閉じた1977年に日本公開された。チャップリンの記録映画としては実に綺麗に纏められているので、これは一つの挽歌になっている。映像の世紀の20世紀を代表する喜劇王が映画監督であったことは、時代を象徴して世界の映画人に多大な影響も与えた。人間愛と戦争反対の平和主義を貫いた微笑みと怒りの映画監督・俳優のチャップリンの生涯は波乱万丈であり、才能と努力の末成功を収め、またその真意が理解されず大きな挫折も味わった。
チャールズ・チャップリンは立派な芸術家だ。類まれな運動神経と子役時代から培ってきたパントマイムの超人芸、そして凡人の想像を超えたアイデアの数々、一本の作品に賭ける情熱と万人に受け入れられる分かり易さの追求と、チャップリン映画は永遠の生命を持つ。しかし、そんな天才にも人間らしい欠点や悲しみがあるものだ。チャップリンの場合は、幼く純粋な少女が好きであったことで、痛い目に会っている。妻の座に付いた女性たちが、映画監督チャップリンの才能と芸術を理解できなかったことが大きい。自業自得な点もあるが、人生を振り返ったチャップリンが苦痛の生涯であったと語るところは、とても印象的である。
初期の撮影風景のなかで、デビューしたてのチャップリンが監督の指示通りに演技しないで怒られるところがある。自分にしか表現出来ない天性の発露であったのだろう。チャップリンスタイルを確立し高額の収入を得て、俳優として異例の出世をして個人の撮影所を持つまでになる。ロンドンの貧民街の極貧生活から芸人として自立し、移住してアメリカンドリームを成し遂げたイギリス人チャップリンの栄光の始まりである。
そして面白いのは、私生活の所々が映画のワンシーンに重なるところだ。チャップリン程の芸術家が自分の性格や生活を素直に反映させている。その意味でチャップリンの人間味に素直さとか正直さが感じられる。
この記録映画は、チャップリンの生き方と映画を巧みにカットバックさせている。その流れは、実に気持ちいい。1950年代の赤狩りによりアメリカを追放された後の、アカデミー賞の特別賞を受賞する感動的なクライマックスを経て、最後スイスでの幸福な余生を送るチャップリンを映し、チャップリンファンを何とも言えない喜びに包み込む。
そして、この映画の特徴として大切なことは、制作のバート・シュナイダー、脚本・監督のリチャード・パターソン、協力ピーター・ボグダノヴィッチなどのスタッフが若い映画人であることだ。ナレーターにウォルター・マッソー、ローレンス・オリビエ、ジャック・レモンの名優たちが加わる貴重価値もある。
映画は続く、いつまでも。
1978年 9月19日 飯田橋佳作座