「彼に何があったかを電車が時間を遡って見せてくれる話。」ペパーミント・キャンディー だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
彼に何があったかを電車が時間を遡って見せてくれる話。
バーニングは村上春樹が苦手なので結局行きませんでしたが、オアシスが名作だと聞いていて、ペパーミントキャンディーとともにデジタルリマスター公開とのことで見てきました。オアシスも見ようと思っています。
全く予備知識なしで見始めたのですが、なんと主人公1999年のピクニックで線路から動かず自殺!というところから始まるんですね。
その衝撃のエピソードから順に遡り、1979年の同じ場所、同じメンバーでのピクニックエピソードまで7つのエピソードがあります。
キム・ヨンホさんが主人公で、彼が自殺するわけです。
過去を遡りながら、あぁだからああなったのねという答え合せができる構成です。
エピソードとエピソードをつなぐ映像が、電車が走る映像の逆再生なので、風景の車や人が逆走している様がシュールです。そして電車の逆再生映像の音楽がなんとも言えない音楽で、映画の雰囲気を良くも悪くも方向づけない意味のわからない音楽でした。はっきり言ってしまえばこの音楽はダサいと思いました。
キム・ヨンホさんの20年を順に追うと、
夜学の仲間とピクニックにきてユン・スニムさんといい感じに、みんなで歌を歌って(この歌を死ぬ前に一人で絶叫みたいに歌います)、写真がしたいと語り、スニムさんからペパーミントキャンディーをもらい、20年後に死に場所にする鉄橋を、河原に寝転びながら眺めて、涙を浮かべます。
その眼は悲しみではなく、希望をたたえているように見えました。
さて、ピクニック後のヨンホさんは、軍隊に入ります。スニムさんと文通をしていたらしく、スニムさんが手紙に入れるペパーミントキャンディーを飯盒に溜めていた様子です。ヨンホさんは軍隊にはあまり馴染めている感じがありません。そんな折なんらかの事件が起きて出動するのですが、ヨンホさんは流れ弾に当たって足を怪我します。もともとびびっていた上に怪我にも気付かずなくらい混乱していたヨンホさんは、誤って女子高生を射殺してしまいます。
ちなみにスニムさんが面会に来ましたが会えませんでした。
除隊後のヨンホさんは警官になりました。のちに妻となる少女に懐かれます。仕事でやりたくないのに拷問をしなくてはいけません。スニムさんが会いにきますが、多分わざと嫌われるように振る舞い(後の妻の尻を触るという痴漢行為をスニムさんに見せるという外道行為)、スニムさんは涙をこぼします。カメラをスニムさんはプレゼントしますが、ヨンホさんは駅で突き返します。その夜後の妻の店で暴れた後で、後の妻を抱きます(なんでこの娘はこの男に身を捧げたのかわたしには理解不能)。
妻が妊娠中のヨンホさんは、すっかり拷問にも慣れており、ガンガン拷問してます。張り込み捜査でスニムさんの地元へ赴き、その町の飲み屋の店員娘と一夜の交わりを持ちます。店員娘はスニムさんの代わりになるといい、ヨンホさんはスニムさんの名を呼んで涙をこぼします。
事業を起こしたヨンホさんはイケイケです。妻の浮気を暴いて妻と間男をボコボコにします。自分も部下と絶賛浮気中です。浮気相手と食事してたら以前警察で拷問した青年と会います。青年の日記に書かれていた言葉を青年に囁きます(人生は美しい、だったかな?)。妻とはあまりうまくいっていなくて、自宅に人を招いているのにヨンホさんはペットの犬を邪険にしたり、妻のお祈りにイラついたりしてます。
事業が傾いたヨンホさんは畑の掘っ建て小屋みたいなところで生活してます。犬嫌いなのに元妻のアパートにいって犬に会いたかったとかいいます。元妻にはめちゃ邪険にされます。元共同経営者を撃ちますが、フロントガラスに阻まれます。帰宅するとスニムさんの夫が訪ねてきて、スニムさんが死にそうなので会いにきてくれといいます。ペパーミントキャンディーをお土産に携えて病院へいくと、スニムさんの意識はもうありません。ヨンホさんは泣きながら謝ります。スニムさんは意識がありませんが、目尻から涙が落ちました。
20年前の仲間でピクニックをするからおいでよ!という投稿が、ラジオでながれていました。
懐かしい面々でのピクニックに、異様な雰囲気のヨンホさんが乱入してきます。虚ろな目のヨンホさんは、歌を歌い(20年前と同じ歌)、よろよろとひとの輪を離れ、鉄橋の上で電車に跳ねられようとします。過去に戻りたいと叫びながら。
これを逆から見てますので、わたしはヨンホさんが男尊女卑で横暴なクソヤローだと思っていました。が、不運も重なったんだなぁ、河原で寝転ぶひとの良さげな青年が、落ちぶれた中年になってしまったんだなぁと、珍しく同情しました。
ヨンホさんの妻は、最初から最後まで好きにはなれませんでしたが。
女子高生を射殺してしまった時の事件や、青年を拷問しまくっていた時期の事件など、全然知らないんですが(勉強します)、韓国の現代史を背景にしている見応えのある作品でした。
1988年にソウルオリンピックがあり、それは覚えています。その前年?に政変系の事件があったなんて全然知りませんでした。1987か86年の政変系の事件の映画は他にもありますし、機会があれば見ようと思います。
万人ウケはしません。結構見ながら頭を使います。途中退室された観客がいました。