劇場公開日 2023年6月16日

「退廃そして孤独」ペトラ・フォン・カントの苦い涙 フレンチクローラーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0退廃そして孤独

2025年3月13日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

知的

難しい

寝られる

序盤はやや退屈に感じてしまいましたが、中盤から終盤にかけて途方もないカタルシスを得ることができました。改めて名監督の作品には向き合う価値があると実感します

この作品は「権力を持つ女性(ペトラ)が若く美しい女性(カリン)を愛人にしようとし、結果的にその気紛れに振り回されて破滅する」という物語です。主人公を女性の権力者とすることで、ファスビンダーは支配と依存の関係を単なるジェンダーの問題ではなく、人間関係の普遍的な課題として描き出すことに成功しています

興味深いのは、ペトラのキャラクターがファスビンダー自身の自己投影と読み解ける点です。華々しい成功と裏腹の内面的空虚さ、支配と被支配の反転、その心の空白を埋めようと暴走する独り善がりの愛。まるで人間社会を檻の外側から眺めているかのような冷たい人間観察を経て、感情の爆発を経験し、解消しようのない破滅と孤独に着地する展開には一種の爽快感すら感じます
本作を監督の自省的な作品として捉えると、ファスビンダー監督の冷徹な観察眼が他者だけではなく自分自身にも向けられていることがわかります。彼が若くして自殺(諸説あり)してしまったのも、ある意味で必然だったのかもしれません

ファスビンダー作品特有のテイストと監督の個人史が色濃く反映されているので、特に彼のファンにお勧めしたい作品です

フレンチクローラー