「その子豚を食べるなんてトンでもない🐷! 家畜の世界は非情なのです…。」ベイブ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
その子豚を食べるなんてトンでもない🐷! 家畜の世界は非情なのです…。
とある農場に貰われた子豚のベイブが、農場主のアーサーや他の動物たちとの交流を通して成長していく様子を描いたファミリー・コメディ。
脚本/製作を担当したのは『マッドマックス』シリーズや『トワイライトゾーン/超次元の体験』の、後のオスカー(長編アニメ映画賞)監督ジョージ・ミラー。
第68回 アカデミー賞において、視覚効果賞を受賞!
第53回 ゴールデングローブ賞において、作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞!
子供の頃、VHSに録画してあったこの映画を何度再生したことか…。
思い出の映画を約20年ぶりくらいに見返しました〜!🐷🐖🐽
…が、、、。
吹き替えの声が思っていたのと違う〜😭💦
ベイブの声がベテラン声優の田中真弓さん…。
そりゃ田中真弓さんは超一流ですが、本作は「金曜ロードショー」で放送されていた、子役の山田千晴という人が吹き替えていたバージョンで観たかった。
あの辿々しい感じの、凄く自然な子供っぽい演技(本物の子供が吹き替えているんだから当たり前だけど)が如何にも子豚ちゃんって感じで最高だったんだけどな〜😢
吹き替えが体に馴染んでいるものと違った為、ちょっぴりトーン・ダウンしてしまいました(豚だけに🐖)が、やはり内容は懐かしかった!ノスタルジック〜な気持ちになれました。
とはいえ、一つの映画として気になる点もちらほら…。
まず文句なく素晴らしいところは、動物たちの演技でしょう!もうこの映画の価値の90%はこれだといっても過言ではない。
🐷、🐶、🐱、🐴、🐏、🐔などなど、、。色々な動物たちが生身で演技をしている様はさながらサーカスのよう。
動物好きな人なら、これを観るだけでほっこりして満足することでしょう。
これほどまでに主要人物に動物ばっかり出てくる映画も珍しいと思う。
撮影がめちゃくちゃ大変だということは素人でも容易に想像がつく。
ジョージ・ミラーが脚本と製作を担当しているのに監督からは外れているのは、やっぱり自分で監督するにはあまりに面倒でしんどかったからじゃないのかなぁ、と邪推してしまう。
とにかく子豚ちゃんがすぐ大きくなってしまうので、撮影には50頭もの子豚が使われたとのこと。実はシーンごとにベイブを演じている役者豚は違うということです。
これって結構驚き。全く気が付かなかった…🐖。
アニマトロニクスと実物の動物をうまく使い分けて撮影している。…がやはり今観てみるとアニマトロニクスの部分は凄く作り物っぽい。この辺は『ジュラシック・パーク』とかに比べると技術的にショボいなぁ、と感じてしまう。
しかし、動物の口元を喋っているようにみせるCG処理は見事。全然違和感がなかった。
現代なら動物の演技は全てCGで処理してしまうのかも知れないが、それでは映画の面白みは半減してしまうだろう。この映画には本物だからこそ発することができる、血の通ったエネルギーが存在している。
これはやはり『マッドマックス』を作ったジョージ・ミラーだからこそ出来たことなのかも知れない。
動物たちの夢の共演を見る事ができるだけで、この映画には価値がある。それは間違いない。
しかし、映画の出来がいいのかと言われると…、うーん…🤔
これは意図した事なのかどうか分からないが、喋る動物たちというディズニー的なメルヘン世界なのにも拘らず、描かれる物語はもの凄く残酷。
冒頭のベイブが母親から引き離されるシーンから終盤に至るまで、物語には死の匂いが充満している。
人間と深い関わりを持つノンバーバルな存在が、実はそれぞれ言葉を話してコミュニティを築いているという構図は、奇しくも同年に公開されている『トイ・ストーリー』に似ている。
家畜とおもちゃという違いはあるが、基本の構造は全く同じ。どちらも所有者である人間に生殺与奪の権利を握られている。
『トイ・ストーリー』は非常に高いクオリティの、アニメ史に残る傑作だと思うが、実はこの点は結構ぼやかされている(この点にはっきりとした回答が与えられるのは『トイ・ストーリー3』まで待たなくてはならない)。
それに対して『ベイブ』は真っ向からこの問題を描いている。
「豚は人間に食われるために存在している」。
これ、心情的には「そんな事ない!豚にも生きる権利があるのだ!」と言いたいところだけど、普通に肉を食べている自分にはそんな事を言う権利は無い。今日もお昼からがっつり肉を食べちゃったし😋🍗🍽🍖
ベイブが食卓に並ぶのか、それとも並ばないのか、というサスペンスが前半の見どころな訳だけど、仮にベイブを人間に見立てて考えると、こんなに残酷で悪趣味な物語も無い。本作はここをコメディとして描いているんだから尚更ですよね。
でもこれは現実世界に凄く密接に結びついている摂理。家畜として飼われている豚が食べられるなんて普通のこと。
そこを、豚が喋れるというだけでこんなに残酷で悪趣味な物語になるんですよ、というブラック・コメディとして立ち上げているのが本作の面白いところではある。
結局ベイブは助かるけど、代わりにアヒルの女の子が食べられているわけですからね。
しかも孫のクソガキが「これキライ!」とか言っててね。もうこれなんだ。悪夢かよ。とか思いましたよ私ゃ。
でも本作がブラック・コメディとして突き抜けているのかといえば、割とそうでもなく、全体としては子供も気軽に楽しめるファミリー向け映画になっている。
『ベイブ』の世界は、というか現実の世界もそうだけど、もの凄く残酷なものであり、この物語の後もアーサーさんの農場ではアヒルは捌かれ続けるし、豚は工場で生産されて大きくなったら屠殺される。
このベイブを取り巻く大きな問題が、後半になると有耶無耶になってしまい、立派な牧羊豚になりましためでたしめでたし。と幕を閉じる。
猫のダッチェスが「豚は食われる運命なんだ」とベイブに告げて、彼が大きなショックを受けるという場面が後半の見せ場の一つ。
これでベイブは心身ともに衰弱するわけだけど、そこから回復した理由がアーサーさんが楽しそうに踊ったから、って意味がわからん。食人族も人間食べる前には歌って踊って騒ぐぞ。
自分たち豚は食べられるためだけに存在している、という摂理を知るというのは、ベイブにとってアイデンティティを揺るがす強烈な出来事な筈。
そこを深掘りせずに、楽しげなダンス・シーンでお茶を濁すというのはどうなんだろう…?
まぁこれはファミリー・ムービーなんだから、あんまり深いところまで描く必要はないとは思うんだけど、だったらこんな物語にすんなよなぁ…とは思う。
あとこれは子供の頃から思っていたんだけど、いくら羊の亡骸の側にベイブがいたとしても、あんな子豚が大人の羊を噛み殺せるわけがない、ということに動物のプロであるアーサーなら気付くだろう。
ベイブを犯人だと勘違いして撃ち殺そうとする、っていう展開に無理がありすぎ。これじゃ子供も騙せんぞ。
物語の残酷さと、家族向け映画としての体裁が上手く噛み合っていないなぁ、と感じる一作。
子供の頃の思い出の一本ではあるが、今思えば子供心にもこの映画の歪さに気が付いていたような気がする。
何にせよ、教育の為に本作を子供に観せるのはとても良いことだと思う。食と生命のありがたみがわかるかも。
因みにアーサーを演じたジェームズ・クロムウェルは本作への出演がきっかけでヴィーガンになり、行き過ぎた動物愛護活動で逮捕されている。
…人生色々だわ。
全然関係ないけど、アイリスアウトする映画を久しぶりにみて興奮してしまった。
自分はアイリス・アウト/インにフェティシズムを感じるので、こういう映画をもっと観たい!