「コマンドーVSプレデター💥💥 『エイリアン』的SFホラーとシュワちゃん流大味アクション、水と油が見事に融合っ…?」プレデター たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
コマンドーVSプレデター💥💥 『エイリアン』的SFホラーとシュワちゃん流大味アクション、水と油が見事に融合っ…?
宇宙から飛来した狩人「プレデター」の恐怖を描くSFアクションホラー『プレデター』シリーズの第1作。
ゲリラに連れ去られた政府高官を救うべく、南米のジャングルへと降り立ったダッチ・シェイファー少佐率いる特殊部隊。そこで彼らを待ち受けていたのは、謎の地球外生命体による一方的な“狩り“だった…。
主人公、ダッチ・シェイファー少佐を演じるのは『ターミネーター』『コマンドー』のアーノルド・シュワルツェネッガー。
『エイリアン』シリーズ(1979-)と並ぶコワコワ地球外生命体映画の金字塔。一時は存在感を失っていたが、近年急速に盛り返しているシリーズである。
本作はその記念すべき第1作な訳だが、実は主役を務めたのがあのシュワちゃんであった事は意外と知られていないのではないだろうか。
監督は後に『ダイ・ハード』(1988)を手掛け、アクション映画界に革命を起こす男ジョン・マクティアナン。逮捕だの破産だの、なんやかんや色々あって今や業界からは完全に干されてしまったマクティアナン監督だが、その手腕はやはり本物。アクションの面白さとホラーのスリルを見事に掛け合わせ、他に類の無い異色なSF映画を作り上げた。
前半と後半で全くトーンが異なっているのが本作の特徴である。
あのカルト的人気映画『コマンドー』(1985)の2年後に公開されているという事もあり、前半の異常なテンションは完全に『コマンドー』のそれを引き継いでいる。「元グリーンベレーの俺に勝てるもんか」などの名台詞でお馴染みのキャラクター、クックを演じた俳優さん(ビル・デューク)も出演しているし、これは『コマンドー』の続編、あるいは前日譚である可能性が微粒子レベルで存在している…?
とにかく、シュワちゃんとアポロ・クリードがジャングルを突き進むという、『コマンドー』なのか『ロッキー』(1976)なのか『ランボー』(1982)なのかサッパリわからん、80'sアクション映画の棚ざらえの様な展開が続く。
「俺たちはレスキュー部隊だ。殺し屋じゃない」と言い放った後、殺し屋以上の大殺戮を繰り広げるダッチの姿にはプレデターくんじゃなくてもドン引きする事だろう。まだ人質の無事も居場所もわかってねーかんなっ!?
チェーンガンの使い手ブレインのセリフ「やることが派手だねぇ」がこの前半部分の全てを要約している。
圧倒的な火薬量でゲリラを鏖殺する大味アクションから一転、後半は謎の襲撃者の恐怖が描かれたスリラー/ホラー映画へとシフト。鬱蒼としたジャングルは密室としての機能を果たしており、1人、また1人と仲間が殺されてゆく展開は『シャイニング』(1980)や『エルム街の悪夢』(1984)、そして何より『エイリアン』(1979)を想起させる王道のホラーとなっている。
モンスターホラーは捕食者のデザインと設定がキモであるが、その点で言えば本作は大合格💮
アメコミのヴィランさながらの異様なアーマー、この世のものとは思えないグロテスクな素顔、人間の生皮を剥いで木から吊るすという残虐性、武装した戦士しか狙わないというプライド、サーモグラフィーで獲物を探すというフレッシュな視点、透明人間へのオマージュと、何から何まで素晴らしい👍
プレデターくんが映画史上最高のモンスターの1人である事は疑いようも無いでしょう。
もうひとつの本作の美点は、説明を可能な限り省いている事。最近の映画にありがちな、昔からエイリアンの研究をしている博士なんかが出て来て「奴の名はプレデター。○○という惑星からやって来た知的生命体でその目的はうんぬんかんぬん…」といった様な説明台詞は一切なし。襲撃者の名前も目的もわからぬまま、ただただ殺戮が繰り広げられる。この「何もわからない」というのが重要で、観客もレンジャー部隊とシンクロするかの様な混乱を味わう事が出来る。
一から十まで説明するなんてヤボ。省略の美学こそ映画の本質なのだ。
後半の展開は確かに王道のホラー映画である。しかし、展開が王道であるにも拘らずなぜか今作からはホラーのにおいが漂ってこない。それは何故か!もちろん、主役がシュワちゃんだからである!!
もし今作の主役がシガニー・ウィーバーやジェイミー・リー・カーティスであれば極上のホラー映画に仕上がっていたかも知れない。だが、実際に主演を務めるのは我らがアーノルド・シュワルツェネッガー。シュワちゃんがそこに居るという安心感が全てのホラー要素を打ち消してしまい、たとえ血塗れの死体が木から吊り下げられていようが、隊員の頭が吹っ飛ぼうが、頭蓋骨ごと脊髄を引き抜かれようが、言ってしまえば怖くは無いのである。だってシュワちゃんだし…そりゃ最後は勝つでしょ。
SFホラーと80'sアクション。全く違う2つのジャンルがそれぞれ邪魔する事なく共存しているが、まぁ上手く混ざり合っているとは言えないか…。
脚本段階でこの映画がアクションだったのかホラーだったのかはわからないが、結果としては純然たるSFアクションに仕上がっている。終盤、身体全体を泥で覆ったシュワちゃんがDIY精神溢れるレンジャースキルでプレデターのハイテク装備に立ち向かっていく所なんかは盛り上がるが、その一方で「コイツらこんなところで何やってんだ…?」という困惑を覚えるのも事実。シュワちゃんも殆どモンスターみたいなもんだから、どんだけホラー演出を頑張ってても結局は怪獣映画になってしまうんですね。
アクション映画としては文句無しに面白いが、もっと線が細い人が主役だったらこの作品は全然違う感じになってたんじゃないか。そっちのパターンも観てみたかったかも…なんて無いものねだりをしてしまったりするのです。
※日本語吹き替えの翻訳を務めるのは、あの『コマンドー』でも辣腕を振るった平田勝茂さん。平田さんの言語センスは今作でも爆発しており、先述した「やることが派手だねぇ」の他、「そこに立ってろ」や「邪魔するよぅ」など、耳と心に残るフレーズがたっぷり。
声優もシュワちゃんのフィックスとしてお馴染みの玄田哲章の他、大塚芳忠、青野武、大友龍三郎といったテストステロンの塊の様なキャストが揃う。
これは吹き替えで鑑賞する事により面白さが3割増しになるタイプの作品。普段字幕で観るという人にも是非試してみて頂きたい。