不良少女モニカのレビュー・感想・評価
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喜劇→悲劇への急転直下
イングマール・ベルイマンは作家性の根本に神学があり、それゆえ私のように凡庸で不勉強な極東人からするとどうにも懸隔を感じてしまう映画作家だ。
しかし本作はベルイマンのフィルモグラフィーの中では比較的そうした傾向が薄いので気軽に楽しめた。
不良少女というタイトルが端的に示す通り、本作は不良少女モニカとその伴侶ハリーが辿る顛末についてのネオレアリズモ的悲劇だ。
共に家庭環境の悪いモニカとハリーは電撃的に恋に落ち、家を飛び出す。ボートで逃げ延びた先の辺境で二人はしばしのハネムーン的生活に耽るものの、モニカの妊娠を機にハリーは元の生活への帰還を決意する。
しかし子供ができたことで二人の間には大きな溝ができてしまう。子供のために身を粉にして働くハリーに、モニカは不満を露わにする。「子供ができてからあなたは私に服さえ買ってくれない」。未来を見据えるハリーと、現在を生きるモニカ。二人の生活はモニカの浮気という形で破綻を迎える。
何とも救いようのない話だが、ネオレアリズモに慣れ親しんだ身からすると特段面白味はない。本作をハリーの受難と捉えれば、キリスト教における数々の理不尽な説話と重なる部分があり、そこにベルイマンの作家性をなんとなく看取することはできるが、だったら『第七の封印』とかでいいじゃん…とは思ってしまう。
しかしショットの作り込みは面白い。特にモニカ一家のある一晩を捉えた長回しワンショットは秀逸だった。
部屋の中でモニカの母親が作業をしているところにへべれけで帰宅した父親。「今日は結婚25周年の記念日だ!」と騒ぎ立てた拍子に電気が消える。ほどなく「うるさいな」とフレーム外から声が聞こえる。そこでようやくカメラが動き出し、モニカの姿を捉える。モニカと父親が口論になり、父親がモニカを殴りつける。モニカは家を飛び出す。気まずい沈黙だけが部屋の中に残る。
長回しの緊張感もさることながら、喜劇から悲劇への急転直下ぶりも素晴らしかった。
浮気前、肉厚の唇有するモニカの表情のクローズアップが印象に残った
イングマール・ベルイマン 監督による1953年製作のスウェーデン映画。原題:Sommaren med Monika、配給:新東宝=映配。
ベルイマン監督は1918年生まれだから、34〜35歳時の映画。一見、若者の青春映画風だが、主人公が、赤ん坊を置き土産に遊びたいばかりの若妻に出ていかれる内容で、苦味感が満載の映画。また見終わって後、ポスターを見て驚かされた。今見ると何てことない映画だが、当時としてはヒロインの肌露出度がかなり衝撃的だったのかも。
当時、監督(1951年に3度目の結婚していたが)と恋愛関係にあったハリエット・アンデルセン(1932年生まれ)のデビュー映画だそう。あまり美人とは思わないが、みずみずしい肢体で未熟さも見える彼女が後年「叫びと囁き」の次女役を演じた思うと感慨深い。
モニカ役の彼女、出来ちゃた結婚で出産後子育て放棄し、旦那留守中で元カレと浮気する役柄。浮気前、彼女の表情のクローズアップアップ、特に肉厚の唇の映像が何とも艶かしい。その映像は、監督が恋人の、ひいては女性の内なる欲望を冷徹に暴き出している様にも見え、芸術至上主義というか、女を知り尽くしているというか、ベルイマン監督のこわさを感じた。
監督イングマール・ベルイマン、脚色イングマール・ベルイマン、原作P・A・フォゲルストレーム、製作Svensk Filmindustri、撮影グンナール・フィッシャー、セットP・A・ルンドグレン、録音Sven Hansen、作曲エリク・ノルドグレン。
出演 ハリエット・アンデルセンMonika、ラルス・エクボルイHarry、ジョン・ハリソンLelle、ダグマー・エベッセンHarry's Aunt、オーケ・フリーデルMonika's Father、Naemi BrieseMonika's Mother。
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