「本当のライアン二等兵とは誰のことか? それが本作のテーマだ」プライベート・ライアン あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本当のライアン二等兵とは誰のことか? それが本作のテーマだ
馴染みのバーに行くと見慣れない黒人の紳士が静かに飲んでいた
良く見ると泣いていた
店の人に聞くと、彼は米軍の人で日本の基地からイラクに転属が決まったそうで泣いているという
イラク戦争が一山越えてはいたが人間爆弾や自動車爆弾で毎日沢山の死者がでていた頃のことだ
米兵であっても怖いものは怖い
本作のライアン二等兵とは誰のことか?
もちろんマット・デイモン演ずる101空挺部隊の三人の兄を全部失った若者のことだ
しかしそれだけではない
本当は大尉とその部下達のような人々によって、ファシズムが打倒された事で、抑圧された自由のない社会が世界を覆う未来から救いだされた、戦後世界を建設する人々全員のことだ
本作は戦争の現実をこれでもかと、兵士の低い目線で突きつける
肉体を貫く弾丸、肉体を文字通り粉砕し四散する手足、千切れた下半身、大量に流れでる血の海、ミンチのような肉塊と肉片、はみ出る腸わた
わざと彩度を落とし、望遠レンズと手ブレで揺れる映像でなければ正視できるようなものでないグロいシーンが冒頭から突きつけられる
兵士になりきれていないアパムはクライマックスが終わった時、彼は甘い考えを捨て去っていた
戦争とは肉体と知性の全てを振り絞って殺すか殺されるかでしかない現実を知るのだ
戦争は残酷だ、嫌だ、恐ろしい
だから戦争するくらいなら殺されようと、繁華街で歌ってビラを撒く団塊左翼老人達も大勢いる
しかし、大尉のような人々が居なければナチスが勝っていた戦後世界もあったのかもしれない
私達はラストシーンで老人になったライアンの背後で見守る彼の子供や孫達だ
大尉やその部下達がこの残酷で過酷な戦争の中からライアンを救いだし、そして私達に自由で平和な世界を用意したくれたのだ
私達はライアンと同じように大尉達の奮闘に感謝しなければならないのだ
そして再び自由のない抑圧する社会体制を持つ国が世界制覇の野望をみせるならそれを阻止する義務と責任があるのだ
戦争は恐ろしい
ベテランの米軍士官であっても戦地に向かうとなれば人知れず泣いてしまうのだ
それでも戦争を恐れるあまり、私達は殺されるだけでよいのか
空想的に平和を願うだけでよいのか
私達に抑圧と自由のない社会を強制しようとする中国の恫喝に屈してはならないのだ
そのような社会を子供達に渡してはならないのだ
本作の主張はそこにある
そのメッセージは劇中でライアンの母に送られる米国陸軍参謀総長の手紙にあるリンカーンの言葉なのだ
「自由の祭壇に捧げた尊い犠牲」
戦争の悲惨さにひるんではならない
自由を抑圧しようとする国の挑戦に対抗しなければならないのだ
でなければファシズムは復活し世界を覆うだろう
そのことを私達は忘れてはいないか?
だから冒頭と最後の米国旗は色が薄れてしまっているのだ
21世紀の日本
戦後の長い平和が破られようとしている今こそ、私達日本人にこそ本作は大きな意義がある
今こそ観るべき映画だ